経済&マーケット

米景気拡大は過去最長に:リセッション入りは間近なのか?

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

主なポイント

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米国景気動向は、グローバル株式市場見通しを大きく左右します。

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逆イールドという異常事態、そして貿易摩擦やイラン制裁といった問題によって短期的なボラティリティが高まる一方で、過剰な消費や信用、そしてインフレ上昇、金融政策引き締めという、米経済のリセッション入りを警告するいつもの予兆は確認されていません。

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これに加え、世界的な金融緩和を考慮すると、景気は拡大を続けると予想されることからも、豪州や米国を含むグローバルで、株式市場は今後6-12ヶ月でより高値をつけるでしょう。

はじめに

世界金融危機(GFC)後における共通の懸念は、次なるリセッションが間近であるという点です。この懸念は、米国イールドカーブの逆転を受けて、足元でより顕著となっています。そして、現在の米景気拡大のサイクルが過去最長記録を塗り替えていることからも、リセッションはすぐそこまで迫っているのではないかという懸念が浮上しています。

世界全体GDPの24%を占める米国経済は世界最大であり、時価総額で見た米国株式市場はグローバル株式市場の56%を占めます。この様に世界金融システムの中核をなす米国の動向は、グローバル株式市場の動向を左右します。さらに、株式市場の調整(5-15%程度の下落)や軽度の弱気相場(20%程度下落した後にすばやく回復)はよくある事ですが、これらが深刻な下落基調(GFCの様に、20%程度の下落の後、1年度に更に20%下落)に発展するかを決定付けるのは、米国を中心にリセッションが確認されているかの点です。つまり、米国のリセッション入りが間近であるか否かは、深刻なベア(弱気)相場が迫っているかを見る上で重要なポイントなのです。

最長、でも最強ではない

米国株式のシクリカルなブル(強気)相場は、すでに10年間継続しています。これは、第二次世界大戦(WW2)以降で最長、上昇幅(%)では2番目の伸びとなっています。全米経済研究所(NBER)によると、2009年6月に始まった米国経済の拡大は、今や121ヶ月目に突入しています。1945年以降の景気拡大期間の平均が58ヶ月である事を考えると、相当長期化していると言え、1854年に計測が開始して以来最長となっています。とはいえ、過去最強の成長ではない点は注目すべきポイントです。実際のところ、この景気拡大を通じたGDP成長と雇用の伸びは、WW2後の景気拡大局面平均の約半分にとどまり、その成長幅は過去2番目に小さいものとなっています。

米国株式:第二次世界大戦後のシクリカルな強気相場
出所:ブルームバーグ、AMPキャピタル。データはS&P500指数。シクリカルな強気相場とは、20%以上の下落で終了する株価の上昇局面を指します。1990年7月から10月にかけた株価の20%下落は、短期間であり、かつその後1年未満で株価が過去最高を塗り替えていることから、弱気相場ではなかったと言うこともでき、その場合には直近の弱気相場が過去2番目に長いものとなります。
米国経済:第二次世界大戦後の拡大局面
出所:全米経済研究所(NBER)、AMPキャピタル

余剰は見られない

2011-12年や2015-16年、そして昨年以降など数々の成長減速やリセッション入りの危機、そしてGFC後の警戒感を受けて、景気拡大のスピードは緩やかなものとなっています。過去の景気拡大局面からの重要な教訓は、「息絶える要因は高齢ではなく疲労である」という点です。経済成長の期間は、どれだけ早く回復が進み、余剰が出て、インフレが上昇し、中央銀行が引き締めを開始するかによって決まります。現在の景気拡大サイクルは長期化しているとはいえ、そのスピードは緩やかです。この結果、リセッションの予兆と言えるシクリカルな消費や債務、インフレといった余剰が確認されるまでに、通常よりも時間がかかっています。まず最初に、米国のGDPに占めるシクリカル消費の割合は小さいものにとどまっています。中でも、ここ50年におけるリセッション局面全てで確認されてきた耐久消費財や設備投資、住宅投資における消費ブームに起因する余剰は、今回まだ確認されていません。そして、これら全てのGDPに占める割合は長期平均又はそれを下回る水準にあり、これまでの景気後退局面で見られた高水準には達していません。つまりは、ブームなしにはバブルが弾けることはないという訳です。

米国シクリカル消費がGDPに占める割合はまだ小さい
出所:NBER、ブルームバーグ、AMPキャピタル

第2に、家計債務の伸びも小幅にとどまっていることから、民間債務の増大も緩やかで、1990年代初期、2000年代初期、2008-2009年の景気後退局面における水準を下回っています。企業負債は拡大していますが、金利支払いに対する利益の比率は平均を十分に上回っており、資産に対する負債の比率も低くなっています(もちろんの事、公的債務の対GDP比率は懸念点ですが、高い公的債務水準がリセッション入りの前兆となった前例はなく、課税や通貨発行の余地が残されている点からも、民間債務超過とは全く異なるリスクです)。

最後に、リセッションの前ぶれである急速なインフレの進行も確認されていません。しかし労働市場では、失業や不完全雇用の大幅低下を受けて、無理な賃金の引き上げやインフレ圧力といった警告サインが出ています。

米国の失業率は低いものの、賃金の伸びは力強さに欠ける
出所:NBER、ブルームバーグ、AMPキャピタル

しかしながら、米国労働市場にはまだ余剰生産能力が残されていると言え(労働参加率は、通常のシクリカルな上昇局面にまだ突入していません)、賃金の伸びも3%程度と極めて低い水準にとどまっています。直近3回の景気後退局面では、4%を超える賃金成長がリセッション入りを先行しました。そして、設備稼働率は78%と、景気後退の前兆として余剰が確認された過去の水準を大きく下回っています。この点、そして技術革新を背景とした競争の激化を受けて、コアインフレ率は米連邦準備理事会(FRB)の目標を下回っています。

FRBのフェデラルファンド金利は、 対インフレと成長で見ると、未だ相対的に低い
出所:NBER、ブルームバーグ、AMPキャピタル

つまり、FRBは2015年の年末に利上げを開始したものの、金融引き締め政策にブレーキをかけた訳ではありません。過去を振り返ると、フェデラルファンド(FF)金利がインフレと名目GDP成長を大きく上回った後にリセッション入りしており、今回はこの兆候が確認されていません。そして、経済成長をめぐるリスクやデフレよりもインフレの方がまだ対応しやすいという懸念を受けて、FRBは再び利下げに踏み切る模様です。

つまりは、過剰な消費や民間債務、インフレの進行、金融政策引き締めという、米経済リセッション入りを警告するいつもの予兆は確認されていません。ということは、米景気拡大は長期化しているものの、まだ息が残っているということになります。

イールドカーブ逆転について

ここ数か月で逆転した米国イールドカーブは、過去の景気後退局面における先行指標であったことからも、懸念点であることに間違いありません。

米国イールドカーブの逆転とリセッション
出所:NBER、ブルームバーグ、AMPキャピタル

とはいえ、次に上げる理由から、それほど懸念する必要はないと考えられます。

まず最初に、イールドカーブ逆転からリセッション突入までの期間は平均して15ヶ月(だとすれば、足元のサイクルでは来年下期となります)であり、1989年、1998年、2006年のイールド逆転の後、株価は実際に上昇を記録しました。2つ目には、長期インフレ見通しの低下、ドイツと日本の国債利回りの低下、GFC以降株式との抱き合わせで分散効果を発揮する債券に対して投資家需要が高まった点など、成長見通しとは無関係である様々な要因がイールドカーブの逆転を引き起こしている可能性がある点です。3つ目は、金融引き締めの後退を受けて債券が上昇していますが、これは成長にとってもプラスである点です。そして最後に、上記で述べた通り、リセッション入りの兆候となる余剰は確認されていません。

結論

貿易摩擦やイラン制裁という問題は米国経済成長にとってリスクであり、株式市場ではボラティリティが短期的に高まる可能性があります。しかし、世界的な金融緩和、(「財政の崖」の懸念が浮上する中で)今後2年間における債務上限の適用停止と歳出増加の決定、リセッション入りの予兆と言える余剰が確認されていない点を考えると、米国株式市場、つまりはグローバル株式市場は今後6-12ヶ月でより高値をつけると見込まれます。

株価は上昇、債券利回りは低下:どちらが正しいのか?

株価の上昇と債券利回りの低下という不可解な展開に悩まされた投資家も多いようです。しかし、この状況は折に触れて発生することがあります。成長懸念を背景に昨年下落した株式市場では、成長をめぐる短期的な不透明感に惑わされず、低金利環境の長期化や利回り低下によって株価が割安となっている点、経済成長を促す金融・財政刺激策の可能性に注目が移っているのです。これとは対照的に、債券市場は、インフレ低下や短期金利の更なる低下と長期化にフォーカスしたままです。つまり、株式市場と債券市場が同時に上昇している背景には、理屈がちゃんと存在しています。最終的に、今後12ヶ月で世界経済成長が持ち直すとすれば、債券利回りも再び上昇を開始すると予想されるものの、それは段階的かつ小幅なものに留まるでしょう。

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