主なポイント
米連邦準備制度理事会(FRB)は、経済成長とインフレを巡る先行き不透明感を理由に挙げ、政策金利を0.25%引き下げました。
今後もあと1回または2回の0.25%の追加利下げが見込まれており、次回は9月となる予想です。しかし、米国のリセッション入りの可能性は低いことから、今回の利下げサイクルは限定的となる見通しです。FRBや世界的な金融緩和は、来年にかけて世界経済の成長を助成するでしょう。
短期的なボラティリティを除けば、米国金利の低下は、今後6-12ヶ月にかけて株式市場にプラスに寄与します。
主要なリスクは、貿易摩擦とイラン制裁による脅威です。
豪州準備銀行(RBA)は既に利下げを開始しており、当社では最終的に0.5%まで引き下げると予想しています。FRBの利下げがこれに影響を与える事はありません。
はじめに
幅広く予想されていた通り、FRBがフェデラルファンド(FF)金利を0.25%引き下げて、誘導目標レンジを2-2.25%としました。これは、2008年12月以来初の利下げとなり、2015年12月から2018年12月にかけて行われた9回の0.25%利上げに続くものです。米国債などの保有資産を縮小する「量的引き締め」も、予定から2か月前倒しで即時に終了とすると発表しています。米連邦公開市場委員会(FOMC)後に発表された声明には追加利下げの余地が残されていますが、パウエルFRB議長の会見では「サイクル半ばの調整」であり、「長期にわたる一連の利下げの始まりではない」としつつも、「(利下げは)1回のみ」ではないかもしれないとし、混乱する内容の発言がありました。
保険的な利下げ
米国の潜在成長率や雇用市場は堅調さが維持されていることを考えると、FRBは、米中貿易戦争やイラン制裁、世界的な経済の弱含みといった世界経済見通しを巡る脅威、そしてインフレよりもデフレを嫌がるFRBの姿勢を反映し、保険的な利下げを実施したと考えられます。
これは、株式市場暴落を受けた1987年の緩和、そして米国金融システムを脅かしたロシアの債務不履行を発端とするヘッジファンドのロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)破綻危機を受けた緩和に似ています。
過去50年程度を振り返ると、FRBの利下げパターンが見えてきます。それは、何らかの危機が米国経済見通しの脅威となる局面で利下げを実施するというものです。次の図表をご覧ください。2001年はITバブル、2007年はサブプライム住宅ローン危機、そして今回はそこまでの危機ではないものの、貿易摩擦が最大かつ唯一のリスクであるとも言えます。

今年に入りコア個人消費支出(PCE)デフレーターがFRB目標の2%を下回ったことで、利下げの余地が生まれたという訳です。
追加利下げが見込まれるも、限定的となる可能性が高い
FRBが利下げを1回限りとするケースは稀です。1998年のLTCM破綻危機では0.25%の利下げを3回実施しています。経済成長見通し、特に貿易摩擦を巡るリスクは簡単に後退するものではなく、FRBはインフレの方がデフレよりも制御し易いであろうという判断を下したと見られます。つまり、更なる追加利下げの可能性が高く、当社では9月に実施されると予想しています。
とはいえ、米国が近々リセッション入りする可能性は低いと考えています(米景気拡大は過去最長に:リセッション入りは間近なのか?を参照)。イールドカーブの逆転は危険信号ですが、消費財、設備投資、住宅投資がGDPに占める割合は長期平均程度で推移しており、民間債務の増大も緩やかで、リセッションの予兆と言えるシクリカルな過剰消費債務や急速なインフレの進行は確認されていません。ブームなしにはバブルが弾けることはありません。さらには、金融政策の引き締めには至っておらず、FF金利はしばしばリセッション入りの前ぶれとなる高水準には達していません。次の図表をご覧ください。

この結果、FRBによる今回の緩和サイクルは市場が織り込んでいる4回の利下げよりも限定的な2回または3回の利下げ程度にとどまると当社では考えており、次の利下げは9月に見込んでいます。
もちろんのこと、この見通しにおける主な脅威は米国の貿易摩擦とイラン制裁です。
FRBと株式市場
金利低下は全体的に株式市場にとってポジティブです。経済そして収益成長を促進し、株価は(対キャッシュで見て)相対的に魅力的となり、PERは通常上昇する傾向にあります。次の図表では、主要な金融引き締めサイクル終了後の初回利下げを受けた米国株式市場の反応を示しています。

FRBの金融緩和サイクル8回のうち5回において、緩和開始後の3ヶ月、6か月、12ヶ月間で米国株式市場は上昇を記録しています。例外だったのは、リセッション局面にあった1981年、2001年、2007年です。
豪州株式市場もこれと似た反応を示していますが、2000年以降のITバブル崩壊からは大きな影響は受けませんでした。

この見方が正しければ、来年くらいまでは米国のリセッション入りは回避されることとなり、短期的な不透明感(そして、FRBが想定よりもハト派路線出なかった事を受けた当初の市場の反応)は別としても、米国の利下げは株価にとってプラスとなり、今後6-12ヶ月で株式市場は上昇が見込まれます。「FRBには逆らうな」という古い言い回しをもう一度ここで復唱したいと思います。超低金利やマイナス金利政策、そして量的緩和を通じた各国中央銀行の措置に対する懐疑論もありますが、過去10年でこれらの金融政策に逆行した投資を行っていたとしたら、大きな間違いとなっていたのは明らかです。それよりも重要なのは、世界経済指標が今後改善を見せ始めることです。
豪州金利への影響
米国金利が豪州金利を先行するという相関性は、随分前に低くなっています。FRBがゼロ金利政策を取った2009年、RBAは利上げを開始しています。そして、2016年のFRB利上げ局面ではRBAは利下げを実施、今年もFRBに先行して利下げを行っています。つまり、FRBの金利判断をRBAが必ずしも追随する訳ではないのです。世界的な刺激策の実施と同時に米国が緩和を開始したことは世界経済の成長のサポートとなり、これは豪州経済にとってもプラスとなります。とはいえ、RBAの金利見通しを変えるには至らないでしょう。当社では、追加利下げを通じて来年早期には0.5%まで金利を引き下げるという見方を維持しています。RBAは豪ドル安を維持したいことからも、FRBによる利下げはこの見方を支持するものと考えられます。
トランプ米大統領の役割
トランプ米大統領は、ここ1年におけるFRBの利上げに対して極めて批判的な態度を見せ、利下げを行うべきであると主張してきました。大統領や首相にとって、金利は高いよりも低い方が好ましいのはもちろんのことです。しかし、ここで問題となっているのは、トランプ大統領の発言がFRBの独立性を脅かす可能性です。政治的意図をもたない賢明な金融政策を確保するためには、中央銀行の独立性が必要不可欠です。ポピュリズムが台頭する今日において、これは大きな問題へと発展する可能性があります。今回のFRBの金利判断においてトランプ米大統領が関わっていたのかという点については、恐らくFRB独自の判断であったと考えられますが、昨年トランプ米大統領が行った大規模な財政緩和が昨年のFRBによる利上げに寄与した可能性が高いことや、今回の利下げでも貿易摩擦が関与している点は興味深いポイントです。つまり、何らかの形で影響を及ぼしたと言えます。
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