経済&マーケット

州別で見る豪州経済

主なポイント

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住宅価格の下落を受けて、ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州では成長が軟化する一方で、ビクトリア(VIC)州は底堅さを見せています。インフラ・プロジェクトが2020年にピークを打った後には、両州ともに公共インフラ支出の減少から影響を受けると見られます。

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西オーストラリア(WA)州とノーザン・テリトリー(NT)準州では、資源ブーム終焉を受けた景気後退の底打ちに時間を要している模様で未だ軟調さが継続していますが、クイーンズランド(QLD)州は回復を見せています。

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タスマニア(TAS)州への人口転入は、景気拡大と住宅市場の支えとなっています。

はじめに

豪州経済はしばしば、州や準州間で景気拡大ペースが異なるマルチスピード(変速)経済と呼ばれています。これは各州・準州で比較優位性が異なるためであり、景気サイクルの様々な局面において、異なるトレンドが異なる業種に影響を及ぼすことで、経済成長が乖離する現象です。これら比較優位性とは、QLD州の観光業、NSW州の金融・保険業、VIC州とSA州の製造業、WA州とQLD州そしてNT準州の鉱業、SA州とTAS州の農業、首都特別地域(ACT)における行政サービス業です。

次の図表で示した州別の経済状況を見ると、(昨年と同様に)複数の指標でトップのパフォーマンスを見せているのはACTとVIC州です。これに次いでTAS州とNSW州が好調、SA州は中間を推移しており、QLD州、NT準州、QA州は出遅れたままとなっています。

このレポートでは、主要指標を通して各州・準州の経済状況と見通しを考えます。

州別の経済状況(直近との比較、年率%)
出所:豪州統計局(ABS)、コアロジック、AMPキャピタル。ランキングでは、昨年のランキングをカッコ内で表示しています。

労働市場

雇用の伸びはNSW州とVIC州で好調なものの、労働市場への新規参入者の伸びをカバーするには不十分であることから、今年に入って失業率が上昇しています。昨年NSW州で雇用の伸びが最も大きかったセクターは宿泊・飲食、行政サービス、運輸サービスで、雇用の減少が最も大きかったのは製造、メディア、金融・保険でした。これと同様に、VIC州において雇用拡大が著しかったのは専門サービスと教育・サービスで、減少が目立ったのは建設、農業、宿泊・飲食となりました。NSW州とVIC州では、住宅関連分野の雇用が今後1年に渡り減少する見通しとなっており、公共インフラ・プロジェクト関連の雇用も減速すると見込まれることから、これら両州の失業率は上昇する可能性が高いと見られます。

州別の失業率
出所:ABS、AMPキャピタル

失業率はQLD州で上昇しており、インバウンド観光客減速の兆しを受けて更に悪化する可能性があります。一方、資源ブーム終焉の影響を乗り越えたWA州では失業率は改善していますが、雇用の伸びは低調が続く見通しです。SA州では、公共セクターの雇用縮小が目立つものの、失業率の推移は安定しています。TAS州における雇用の伸びは未だマイナス圏にあり、ほとんどの業種でこの状況が確認されています。鉱業と建設セクターの雇用が縮小を続けているNT準州でも雇用の伸びはマイナスとなる一方で、ACTでは公共セクターを除き改善が確認されています。

住宅価格

ここ2年における住宅価格の下落は、引き続き住宅投資、家計資産、個人消費の重石となっています。自由・国民党連合政権による総選挙の勝利は、(ネガティブ・ギアリングやキャピタルゲイン税をめぐるリスクが排除されたことから)住宅価格にとってポジティブであり、豪州準備銀行(RBA)による連続利下げ(当社では今後追加利下げを予想しています)も同じくポジティブです。とはいえ、住宅価格の伸びは小幅にとどまる可能性が高く、更なる価格下落のリスクが残っています。新規供給は未だ高水準にあり、厳格な銀行貸出基準が維持された状態で、経済環境も力強さに欠けています。

住宅価格の伸び
出所:コアロジック、AMPキャピタル

シドニーの住宅価格は2017年7月に付けた最高値から15%下落しており、メルボルンでも2017年11月のピークから11%下落を記録しました。シドニーとメルボルン共に、今後1年にわたる住宅価格の伸びは1-2%程度の僅かなものとなるでしょう。パースとダーウィンの住宅市場は、人口の低成長を背景に引き続き弱含んでおり、この状況が長期化する見通しです。人口のダイナミクスやアフォーダビリティの点で優れるホバートでは、他都市を上回る伸びが継続すると予想されます。ブリスベン、アデレード、キャンベラにおける価格下落はシドニーやメルボルンよりも緩やかで、投資需要やRBA利下げの恩恵を受けると見込まれるものの、住宅価格の伸びは来年を通して3-4%程度の緩やかなものとなると予想されます。

個人消費は多くの地域で低調

住宅価格は底入れ間近と見られる一方で、家計資産の減少、低調な賃金の伸び、高い消費者負債水準といった状況を背景に、目立った個人消費の伸びは期待できません。住宅価格下落の影響を受けて、小売消費の伸びはNSW州で大きく減速しています。一方で、VIC州の小売消費は粘り強さを見せており、これは全国年率平均2.3%を上回る2.7%のペースで成長しているVIC州の労働市場と賃金動向を反映したものです。NSW州とVIC州では今後6-12ヶ月で雇用拡大が後退すると見込まれており、従って個人消費は更に後退する可能性があります。QLD州の個人消費はまずまず好調さが継続していますが、観光客の減少が足枷となるかもしれません。賃金の伸びは、QLD州で全国平均水準、WA州では年率1.6%と低調と、雇用見通しも弱含んでいることから、個人消費への下押し圧力が継続する見通しです。

州別インフラ支出

公共インフラ支出は、2014年以降運輸セクターを中心に拡大を続けています。(現在は後退に転じたものの)好調だった住宅市場からの印紙収入、アセット・リサイクリング・イニシアチブ(州・準州が保有する資産を売却し、その収益で新規インフラ開発を行い、州政府からの追加支援を受けるスキーム)、連邦政府のインフラ支出強化を受けて、州政府財政は拡大しています。

最新の州政府・連邦政府予算案によると、インフラ支出総額は2019-20年度にピークを迎えた後、減少を開始する見通しで、NSW州とVIC州がこの影響を受けると予想されます。

公的インフラ支出
出所:連邦財務省、各種州予算資料、AMPキャピタル

重要な人口成長

豪州が世界経済成長をアウトパフォームしている理由のひとつは、OECD年率平均0.6%に対して、同1.6%を誇る人口の高成長です。豪州における人口の伸びは、永住権取得者年間受け入れ人数上限や(主に中国からの)海外留学生の減少を受けて、減速する可能性が出ています。海外留学生減少の影響を受けるのは、主にNSW州とVIC州となる見込みです。VIC州における力強い人口成長は、住宅需要の重要な源泉となってきました。これとは対照的に、NSW州では住宅価格がVIC州よりも早いスピードで下落しています。

州別人口の伸び
出所:ABS、AMPキャピタル

NSW州では海外からの移住者が人口増加にプラス寄与しているものの、国内を見ると転出超過となっており、最近ではこの流れが加速しています。NSW州からの転出先はQLD州と見られ、恐らくシドニーにおける住宅価格高騰の影響を反映していると考えられます。

豪州国内の人口移動
出所:ABS、AMPキャピタル

まとめ

住宅価格の下落が住宅投資、家計資産、個人消費(特にNSW州において)に水を差しており、国内最大の非資源州2州、特にNSW州が減速していることからも、経済成長の乖離は小さくなるでしょう。公共インフラ投資がピークを迎えて減速に向かう事で、これら非資源州2州は、来年を通してマイナスの影響を受けると見込まれます。一方で、WA州やNTの資源州における景気減速の底打ちは、予想よりも時間がかかっている模様です。

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