責任投資

2019年注目のESG課題トップ10

By クリステン・ル・メジュラー
マルチアセット・グループ、ポートフォリオ・マネージャー 豪州、シドニー

世界的にも多くの投資家が、投資意思決定とリターン評価に際してESG(環境・社会・ガバナンス)の検討を行っています。

2019年において最も注目を集めるであろうESG課題は、次の通りです:

1. 気候変動

温暖化対策として「2度目標」という大枠が合意に至ったパリ協定から約3年、その詳細は決まっておらず、具体的な実行に向けた課題が山積みの状況です。

一方で、一般企業は、低炭素経済に向けた取り組みを開始しています。投資家もまた、気温上昇に関連するリスクの検証を始めています。これらリスクは、以下4つのグループに分類して考える事ができます:

物理的リスク
間接的リスク
政治リスク
移行リスク
不安定な異常気象の影響を受けた物理的な被害
作物の不作など、異常気象からの2次的な経済面への影響
気候変動関連の政策変更による経済的影響
再生可能エネルギー社会への移行に伴う事業価値の変化

これらリスクは、明確に定義されている訳ではなく、その測定も容易ではありません。しかし2019年は、リニューアブル経済への移行に関して目標設定を企業に求める投資家の動きが確認されています。

2. 地域社会の信頼(を取り戻す)

豪州では、王立委員会による金融サービス業界の調査を受けて、カルチャー、報酬、規制当局による指導・監督という、同調査の核心部分にある課題に投資家の注目が集まっています。

その他国々の銀行も同じような試練に直面してきました。2016年、米国最大規模の銀行は、顧客に無断で約200人分の口座やクレジットカードを開設したとして制裁を受けています1。一方英国では、大手銀行グループによる返済保証保険(PPI)の不当販売というスキャンダルが紙面を騒がせました2。

この課題とは、プロセスと企業文化であり、中でも顧客の最善の利益に対する営業や収益目標の位置づけが注目されています。企業収益やその事業活動に影響を及ぼす可能性のある法令違反についても、規制当局がどの様に法的手段をつかって取り締まるのかについても、関心が集まっています。

3. ソーシャルメディアへの投資における倫理

ソーシャルメディア利用者の多くは、サービスを無料で利用する代わりに個人情報を提供することに対して、不満を持っていません。提供する情報は、適切に利用されると考えているからです。重要なのは、信頼です。万が一、個人情報が売却、漏洩、不適切に利用されてしまった場合、消費者は提供した情報の安全性に疑問を抱き、ソーシャルメディア企業の事業モデルを脅かす事態へと発展しかねません。

2019年は、プライバシーと利用者データ保護の取り組みに関する法令や規制に対してどの様に対応するのかが、ソーシャルメディア企業の成功の鍵を握ることになるでしょう。

アクティブ・ユーザー数で見たSNSの世界ランキング(100万人、2019年1月)

アクティブ・ユーザー数で見たSNSの世界ランキング(100万人、2019年1月)
出所:スタティスティカ

4. 医薬品へのアクセス

世界では、必要な医薬品を適正な価格で入手する事が可能な国もあれば、それが困難な国も多く存在します。

医薬品へのアクセスについては、その権利を長年にわたり支持し続けている投資家も存在します。AMPキャピタルは、2016年に、開発途上国における医薬品アクセスの向上を目的に設立された医薬品アクセス財団(Access to Medicine Foundation)の投資家宣言に署名しています。これは、適正な価格での医薬品へのアクセスには世界的にギャップが存在し、高額なR&D費用を負担する必要がある点を認識し、収益と意義、株主利益のバランス維持に向けた取り組みについて世界の製薬企業を評価し、公表するイニシアチブです。

5. インパクト投資

経済リターンだけでなく、社会的なリターンを追求するインパクト投資は、豪州で急速に拡大しています。同国内市場は、2015年6月~2017年12月の期間だけでも4倍以上に成長しており、中でもその伸びが著しいのは、グリーンボンドです。

世界のインパクト投資市場規模は、今や2,280億米ドルに達しています。その大半は、食料・農業、金融サービス、エネルギーの分野への投資です3。

6. パーム油と森林破壊

パーム油は、世界で最も幅広く使われている植物油です。これは、長期の保存が可能で、用途も洗剤からチョコレートまで幅広く、その他多くの油より利益率が高いことが理由にあります。アブラヤシから絞られるこのパーム油ですが、農園開発のため森林が減少しており、アジアで熱帯雨林と生物多様性の深刻な破壊をもたらしていることからも、最も賛否が分かれる油といえるでしょう。

二酸化炭素の排出、原始林の破壊、土壌侵食、空気汚染、オラウータン、ゾウ、サイ、トラを含む動物の生息地破壊など、森林破壊は環境に様々な悪影響を及ぼしています。

世界的なイニシアチブが複数発足しているものの、解決への道のりは遠く、投資家が動きだしています。パーム油サプライチェーンを農園までたどり、しっかりと監査・トラッキングするように改善を呼びかけています。

7. プラスチックとの戦い

2018年は、豪州にとって廃棄物が極めて重要な環境問題に発展した年となりました。中国が廃棄物の輸入を禁止したことから、全国の倉庫ではごみが山積みとなりました5。これと同じ時期には、国内大手スーパーのウールワースとコールズが、レジ袋の廃止を決定しています。日本では、環境省が使い捨てプラスチックの排出量を2030年までに25%削減する数値目標を初めて設定しています6。

都市化と人口増加は急速に進んでおり、現在のペースでいけば、年間の廃棄物排出量は2025年までに22億トンに達すると見込まれています。これは、1日一人当たりに換算すると1.42kgとなります。豪州における廃棄物排出量は年間当たり5,300万トン、1日一人当たり換算で4kgです。

廃棄物管理の分類

廃棄物管理の分類
出所:豪州廃棄物管理協会(Waste Management Association of Australia)、「Never waste a crisis: the waste and recycling industry in Australia」、上院環境・コミュニケーション調査委員会、2018年6月

この世界的なごみ問題の解決に向けて、資源の使用とリサイクルを通じて廃棄と汚染をゼロにする循環経済に関して、企業や投資家の間で議論が始まっています。

そして、興味深い取り組みが複数スタートしています。2017年には、アップルがグリーンボンドを発行し、リサイクル可能なiPhone用素材の調査と開発に向けた資金の調達を行っています7。コカコーラ社は、2030年までに自社製品の販売量に相当する缶・PET容器を全て回収・リサイクルすることで、廃棄物ゼロに向けたコミットメントを発表しています8。そして、マクドナルドは、全パッケージ素材を2025年までに再生可能/リサイクル/認証済み資源に切り替えると発表しています9。

8. 現代奴隷とサプライチェーン

今から6年前、縫製工場が入ったバングラデシュの商業ビル「ラナ・プラザ」で火災が発生し、従業員100名以上の命が失われるという悲劇によって、アジアの縫製工場における労働環境の実態が明らかになりました。バングラデシュでは、まだ課題が残されているとはいえ、投資家のエンゲージメントが寄与した結果、労働者の権利や安全衛生面で確かな進展が確認されています。

しかし、労働者はまだ十分な生活賃金を受け取っておらず、労働組合や集団交渉における壁が残っています。

最低賃金(豪ドル、時給)

最低賃金(豪ドル、時給)
出所:オックスファム・オーストラリア、「What She Makes. Power and Poverty in the Fashion Industry」、2017年10月

世界的にも大手の小売業者や製造業者は、自社サプライチェーンの監査実施に着手しています。今年も引き続き、世界の工場労働者の待遇に更なる注目が集まるでしょう。

9. カカオ産業における児童労働

カカオ生産は多大な時間と労力を要します。農園の賃金は安いうえ、児童労働が蔓延しています。世界のカカオ生産の約70%を占める西アフリカのコートジボワールやガーナでは、200万人以上の子どもが農園で働いていると推定されています10。

チョコレート製造業者は、児童労働対策へのコミットメントを2001年に初めて表明して以降、2010年には、最悪の形態の児童労働を2020年までに70%減少させると表明しています11。

AMPキャピタルは、責任投資戦略を通じて、世界投資家イニシアチブに参加しています。ネスレ、モンデレーズ、ハーシーズ、リンツ&シュプルングリー、カーギル社らとの協働を通じて、児童労働の特定と解決に向けた取り組みを実施しています。

10. 食品中の抗生物質

2019年、薬剤耐性菌による死亡者数は、米国と欧州でそれぞれ約5万人に達すると見込まれています。この数値は、マラリアやHIV、結核が流行している発展途上国において、より高くなっています。

そしてこの死亡者数は、2050年までに世界で年間1千万人へと拡大すると予想されています。これは、年間のガン死亡者数を上回る規模です。

健康面・経済面での影響が莫大であることは明らかであり、2019年における重要な公衆衛生問題、そして注目すべきESG課題と言えます。投資家は、農業や食品生産における抗生物質使用の抑制や、一部ケースでは完全なる禁止や開示改善を求め、農業・食品企業らとのエンゲージメント強化に動くと見られます。

まとめ

ESG問題の関連性は、これまで以上に高まっています。投資家は、重要なESG課題に関するデータや取り組みの報告を求めています。

 

1 https://abcnews.go.com/Business/timeline-wells-fargo-accounts-scandal/story?id=42231128
2 https://www.telegraph.co.uk/finance/personalfinance/insurance/incomeprotection/8495161/PPI-timeline-of-the-mis-selling-scandal.html
3 https://thegiin.org/assets/2018_GIIN_Annual_Impact_Investor_Survey_webfile.pdf
4 https://www.independent.co.uk/life-style/palm-oil-health-impact-environment-animals-deforestation-heart-a8505521.html
5 https://www.abc.net.au/news/2018-02-08/the-demise-of-kerb-side-recycling/9407650
6 https://mainichi.jp/english/articles/20181020/p2a/00m/0na/024000c
7 https://s22.q4cdn.com/396847794/files/doc_downloads/Apple_GreenBond_Report_Feb2018.pdf
8 https://www.coca-colacompany.com/stories/world-without-waste
9 https://corporate.mcdonalds.com/corpmcd/scale-for-good/packaging-and-recycling.html#goals
10 米国労働省、国際労働局:https://www.dol.gov/agencies/ilab/child-labor-cocoa
11 ハーキン・イーグル・プロトコル導入支援の行動枠組み:https://cocoainitiative.org/wpcontent/uploads/2016/10/Cocoa_Framework_of_Action_9-12-10_Final-1-1.pdf

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