主なポイント
豪州におけるGDP成長は、今後2年に渡り2%程度と抑制された状況が継続するでしょう。
豪州経済の最大の重石は、軟調さが続く個人消費です。減税は寄与するものの、連邦政府にとって最優先なのは黒字化のようです。
成長見通しは力強さに欠けるものの、まずまずの収益成長や債券利回り低下を受けた魅力的なバリュエーション、追加利下げ観測を背景に、株式市場からはプラスのリターンが期待できるでしょう。
はじめに
民間支出が大幅に鈍化したことを受けて、2019年、豪州経済の伸びは10年ぶりの低水準へとペースを落としています。2020年の再加速を前に、緩やかなターニングポイントにあるというのが豪州準備銀行(RBA)の見方ですが、AMPキャピタルはこのRBAの楽観的見通しに対して懐疑的です。当社では、2020年~2021年にかけてのGDP成長は、潜在成長率2.75%を下回る2%程度にとどまるとみています。つまり、余剰能力は引き続き問題となり、インフレや賃金成長の伸びの足枷となる見通しです。このレポートでは、2020年の豪州見通しを掘り下げます。

消費者
GDPの6割を占める個人消費は、経済見通しにおける重要な要素です。世帯支出の年間の伸びは1%を僅かに上回る水準と、2009年初旬以来最低となっており、2020~2021年もこの低成長が継続する見通しです。
2015年は8%を記録していた家計貯蓄率は、今年平均で4%へと低下しており、貯蓄を取り崩して支出している(しかし、政府による減税措置を受けて、貯蓄率は足元で上昇している)様子がうかがえます。この貯蓄率は、今後数年間にわたり5%程度の水準が維持される見通しです。2015年に対所得比で170%だった家計債務も、主に住宅債務の伸びを反映し、足元では同191%へと増加しています。家計債務は、他国を大きく上回る高い水準に既に達していることから、今後の増加は小幅なものにとどまるとみられる一方で、賃金の伸びも弱いものとなる見通しです。債務返済能力は、金利が極めて低い現在において、大きな問題ではありません。
住宅価格の上昇は、資産効果を通じて消費支出を後押しします。ここ6か月における住宅価格の伸びは2020年にわたり家計を下支えするものの、消費者センチメントの悪化や賃金成長の鈍化、高い家計債務水準や失業率の上昇を考えると、今回はそれほどの消費刺激効果は期待できないかもしれません。
金利引き下げと減税措置が実施されたものの、想定していた程、消費は促進されていません。追加利下げは住宅ローンを持つ世帯をサポートするものの、住宅ローン金利がこれ以上大きく下がる可能性は低いことから、その恩恵は損なわれてしまいます。更なる減税は、ブランケットクリープ(所得増加を受けて高い税率区分が適用されることによる税負担の増大)の還元という観点から有効となるでしょう。
雇用、賃金、インフレ
豪州では、未活用労働(失業率と不完全雇用)が13.8%という極めて高い水準にあり(米国の7%を大きく上回るものの、ユーロ圏の15.7%程悪くはない)、賃金成長の足枷となっています。未活用労働を低下させるには、雇用成長と労働時間の伸びによる労働需要の増加が必要です。しかしながら、雇用成長に関する先行指標(求人広告、雇用計画、欠員を含む)からは雇用の伸びの減速が示唆されています。当社では、雇用成長は2%を下回り、失業率は5.5%へと上昇すると見込んでいます。
高い未活用労働と低い生産性の伸びが意味するのは、賃金成長は今後2年に渡り2%を僅かに上回る水準が維持される可能性が高いという点であり、これによってインフレ率も低水準となる見通しです。小売セクターにおける値引きもインフレの足枷となり、基調インフレ率は2%に向けて今後3年で徐々に上昇するものの、RBAの目標レンジである2~3%には届かないでしょう。健康衛生や教育、(公共セクターを中心に提供される)運輸といった必要不可欠なサービスの価格は、インフレを上回るペースで成長を続ける見通しです。
住宅市場
豪州住宅市場では、住宅建設の減少に対して住宅価格が驚異的な上昇(ここ数か月で年率20%のペース)を記録するという乖離現象が発生しています。度重なる利下げ、貸出基準の緩和、ネガティブ・ギアリング関連リスクの排除、キャピタル・ゲイン税控除などの措置を受けて、シドニーやメルボルンを中心に住宅価格が上昇しています。抑制されていた需要や売出し物件が少ないことによって、価格が大幅に上昇しています。この価格の伸びは2020年も堅調さが維持され、全国的に10%程度の上昇が見込まれます。最も大きな伸びとなるのはシドニーとメルボルンですが、その他主要都市でも価格上昇が確認できるはずです。パースでも、長期にわたる下落から一転、回復の兆しが見られます。2019~2020年にかけた力強い伸びの後には、高い家計債務水準、銀行貸出基準の厳格化、景気減速の影響を受けて、数年にわたり5%程度の緩やかな伸びが維持される見通しです。
2014~2017年に加速した住宅価格は減速が継続する見通しですが、2020年中旬から後期にかけて底打ちした後、2021年を通して横ばいに近い成長を記録すると予想されます。
投資見通し
2019年に減少した企業投資の見通しは、強弱入り混じるものとなっています。過去6年間減少していた資源投資は、再び増加に転じています。とはいえ、GDPに占める資源部門の割合はピーク時の7%から、現在は僅か2%まで縮小しているため、資源投資増加の成長寄与度はピーク時ほどには至りません。非資源部門がGDPに占める割合はここ8年の間約4.5%となっており、設備投資計画見通しからは、今後も横ばいが維持される、もしくは2019~2020年にかけて若干の減少が見込まれています。
公共投資は、ここ5年間にわたる大規模な運輸インフラ支出を背景に、力強い伸びを記録しています。連邦政府予算からは、2021~2022年頃のピークにかけて、公共投資の伸びがGDPに寄与することが示唆されています。とはいえ、インフラ支出に対する関心の高まりを受けて、このピークが後ずれする可能性があるでしょう。

輸出依存
豪州における主要な輸出品は、コモディティ、教育サービス、観光、農産品であり、その3分の1が中国に輸出されています。ここ10年に渡る投資強化を通じた中国の経済成長やその中間所得層の拡大は、豪州の商品サービス需要の大きなドライバーとなってきました。短期の訪豪者の中で大きな割合を占めるのは中国からの観光客であるものの、教育や観光網的で来豪する中国人の数は、ここ1年で減速しています。

中国GDP成長のペースは年率6%程度へ減速しているもの、それでも豪州輸出に対する需要は堅調さが維持されると見込まれます。この輸出の伸びは、今後数年にわたり、GDPにプラス寄与する見通しです。
追加刺激策の必要性
GDPの伸びは力強さに欠け、インフレ加速の兆候はなく、失業率が上昇していることからも、RBAは2月と3月に追加利下げを実施し、政策金利を0.25%まで引き下げると予想されます。RBAはその後、量的緩和に乗り出す可能性が高く、まず最初は国債買入れに着手すると予想されています。
消費支出の刺激策としてより望ましいのは、減税です。政府は、(2022年の実施が計画されている)税率32.5%の所得税区分の適用上限を9万豪ドルから12万豪ドルに引き上げる減税措置(年間でGDPの約0.6%に相当)を前倒しで実行することが可能です。連邦予算には減税を通じた刺激策を盛り込む余地があるものの、2019~2020年度における黒字化に対する政府のコミットメントが最優先となっていることから、2020年5月までは減税が実行されないという可能性もあります。連邦政府は最近、干ばつ支援や高齢者ケア施設への追加支援、インフラ支出の一部前倒しといった追加の財政刺激策を打ち出したものの、これらは小規模で、GDPの僅か0.1~0.2%程度相当にしか至りません。
見通しにおけるリスク
豪州経済の成長見通しにおけるリスクは、主にダウンサイドのリスクです。世界的な懸念材料は、世界経済成長の鈍化(起因となりえるのは、米国のリセッション突入、米中貿易戦争の度重なる悪化、中国経済の大きな減速)であり、豪州の輸出需要や株式市場を冷やす可能性があります。とはいえ、この様な環境下では豪ドルが下落することとなり、これが若干のサポート材料となるでしょう。成長を考える上で、豪ドル動向は大きなリスク要因です。RBAの予測では、豪ドルの5%上昇(下落)によって、GDP成長は0.5%減速(加速)します。2020年、豪ドルは0.65~0.70米ドルのレンジ内を推移すると当社では見ています。高い交易条件や米ドルの下落が上昇圧力となる可能性がある一方で、下落圧力はRBAによる追加利下げとなるでしょう。
その他の主なリスクは、住宅建設が更に減速し、雇用の伸びが予想以上に悪化するとなれば、失業率が上昇する可能性があります。
豪州における経済成長のアップサイドのリスクは、住宅価格上昇の加速(これを受けて、マクロプルーデンス政策が再開する可能性があります)であり、プラス資産効果と消費支出の増加をもたらすでしょう。
投資への影響
2019年を通して弱含んだ豪州経済ですが、まずまずの収益成長や債券利回り低下を受けた魅力的なバリュエーション、追加利下げ観測を背景に、豪州株式市場は過去最高を記録しています。2020年見通しも弱含んでいるとはいえ、これら要因は豪州経済に一定の影響を及ぼすものであり、世界経済の成長が回復するとともに、豪州株も来年を通して上昇すると予想されるものの、2019年の様な力強いパフォーマンスは期待できません。
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重要事項
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