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2019/20年度豪州連邦予算案:待望の黒字化、総選挙をにらんだ更なる減税の打ち出し

主なポイント

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2019/20年度連邦予算案には、財政黒字化見通しと、主に減税や税控除を通じた財政刺激策の拡大が盛り込まれました。

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主要なリスクは、歳入の底上げが持続せず、比較的楽観的な賃金成長見通しが維持される事です。

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豪州準備銀行(RBA)と株式市場への影響は限定的でしょう。

はじめに

2019/20年度連邦予算案の目的は3つでした。まず最初に、待ちに待った黒字化達成を通じて財政に対する信頼感を取り戻すこと。そして、減速が懸念される経済に対して財政刺激策を提供すること。最後は、政府が総選挙で再び勝利を収めることです。最初のポイントに関しては、予想外の大幅な歳入が寄与する恰好で、黒字化達成への道を順調に歩んでいます。また、この歳入増によって財政刺激策の余地が生まれました。5月総選挙の結果は、時間の経過とともに明らかになるでしょう。もちろん、総選挙の結果がどうであれ、財政刺激策が導入される点には変わりはありません。ただし、その時期が明確になるまでには時間がかかると見られることから、本連邦予算案は若干学問的な内容となっています。

主な予算項目

プラス寄与する施策は以下を含みます:

  • 中・低所得層向け所得税減税が7月からスタートします。昨年は週当たり10豪ドル程度の減税が実施されており、これに加えて、中・低所得層向け所得税制度(Low & Middle Income Tax Offset)の規模を倍増することで、更なる週当たり10豪ドルの減税を実施します。
  • 前年度予算案に盛り込まれた税制改正に続き、より高所得者を対象とした大幅な税収促進が2022年からスタートします。2024年からは、19%の課税枠が拡大となり、課税率32.5%が30.0%へと引き下げられます。
  • 2020年までの期間で、小規模事業向けの資産償却枠を5,000豪ドル拡大して30,000豪ドルとし、中規模事業も対象に含めるとともに、小規模事業の法人税が当初より前倒しで25%へと引き下げられます。
  • 合計390万人の年金受益者やその他生活保護者に対して、75~125豪ドルの現金支給が実施されます。
  • 65歳と66歳を対象に、年金積み増しに際する柔軟性が改善されます。
  • エネルギー効率政策関連支出には、スノウィー・ハイドロ発電所プロジェクトに対する14億豪ドル規模のエクイティ出資が含まれます。
  • ギーロン~メルボルン間鉄道プロジェクト(20億豪ドル規模)やニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州運輸プロジェクト対する大規模な資金の割当を含めることで、今後10年間におけるインフラ支出に250億豪ドルが上乗せされます。

歳入拡大も、減税策が打ち出される

法人税収入の伸び、雇用改善を受けた個人所得税からの増収、支出の減少のおかげで、2018/19年予算案の赤字見通しは42億豪ドルとなり、中間経済・財政見通しの52億豪ドルから縮小しています。収入増は一時的なものであると政府は想定しており(次ページの図表:基礎現金収支見通しにある「項目変更の影響」を参照)、減税やその他措置の原資に使われているのはこの僅か一部です。これらを勘案した結果はというと、黒字幅はGDPの0.4%程度の71億豪ドルとなり、その幅は小さいものの、翌年度に財政黒字化する見通しに変わりはありません。減税を中心とした政策変更による財政緩和によって、黒字幅拡大のペースが若干減速した格好です。

一方で、2019/20年度に予定されている財政刺激策は、実際の所、次ページの図表:基礎現金収支見通しにある「政策変更の影響」よりも大規模である点に注目してください。中間経済・財政見通しには30億豪ドル規模の減税が既に組み込まれており、合計に決定済みの減税が含まれているとした場合には、黒字幅は90億米ドル程度もしくはGDPの約0.5%となります。とはいえ、黒字幅は比較的小さく、低調な賃金成長や住宅価格下落を受けた逆資産効果の影響を相殺するには不十分です。

基礎現金収支見通し
出所:豪州財務省、AMPキャピタル

今後10年間で既に決定している高所得者向け減税の目的は、政府が2014年予算案で発表したとおり、税収に上限を設け、過去最高水準にほど近いGDPの23.9%(又は、配当を含む歳入をGDPの25.4%)とすることです。税収は、2021~22年頃にこの上限に達すると見込まれています。

連邦財政収支
出所:豪州財務省、AMPキャピタル

経済予測

政府の経済見通しは、特に賃金成長の予測が若干楽観的に見えます。失業率の低下が見込まれていないばかりか、当社見通しでは5.5%へと上昇すると予想していることからも、今後数年間で賃金が大きく伸びる可能性は低いと考えられます。

経済予測
出所:豪州財務省、AMPキャピタル

評価とリスク

昨年度の予算案と同様に、今年度も明るい内容の予算案となっています。まず、短期的な中・低所得層向け所得税減税は、軟調な賃金成長、住宅価格の下落、貸出基準の厳格化に苦しむ家計の助けとなるでしょう。この減税の規模は1年前の当初計画から倍増しているものの、実際には1週間当たり約20豪ドルと、(コーヒー3杯とマフィン3個相当にしかすぎない)比較的小規模となります。2つ目は、連邦予算では、公的債務の削減において、ブランケットクリープ(所得増加を受けて高い税率区分が適用されることによる税負担の増大)に頼ってはいけないという点が引き続き認識されている点です。豪州の税制は、既に極めて累進的であり、所得者の上位10%が所得税歳入の45%程度を占めるように、更に進化を続けています。その他同等の国と比較しても、最高税率は高水準で、平均所得に対しては相対的に低い税率が適用される仕組みとなっています。実のところ、納税額が政府扶助を上回るのは所得者の上位20%に留まっています。これが限定的でなければ、インセンティブや生産性に水を差すことになりかねません。3つ目は、インフラ整備に対するフォーカスが維持されている点は、短期的な成長、生産性、民間投資の促進にプラスであり、経済成長をサポートするものです。

所得額別で見た世帯が享受する正味の便益(政府扶助から納税額を差し引いた額、2015-2016年)
出所:豪州国税局、AMPキャピタル

最後に、近年は支出の伸びが抑制され、歳入が増加したことで財政黒字化の見通しはポジティブです。

財政黒字化見通し
出所:豪州財務省、AMPキャピタル

しかしながら、財政赤字は過去最長の11年間継続することになります。豪州の政府債務(ネット)GDP比は19%と、米国の78%、ユーロ圏の70%、日本の156%と比較しても低水準ですが、高債務の国と比較するのは危険です。財政赤字は1980年代や1990年代の債務が積み上がった結果であり、それでも深刻なリセッション入りはありませんでした。世界経済危機(GFC)の時代に支出を拡大し、それを抑制せずに維持したことがリセッション回避に寄与したのです。GFC以前とは異なり、万が一に向けて蓄えられる資金はありませんので、世界経済が減速したり、より可能性の高いシナリオとして豪州経済が軟化し雇用が悪化するとなれば、歳入増というサプライズは一時的なものに留まる可能性があります。

政府による今後1年間の歳入見通しは控えめな内容です。これは、一部減税の影響を受けたもので、鉄鉱石価格は1トン当たり55米ドルへと下落する見通しとしており、保守的となっています。大きなリスクは、賃金が見通し通りに伸びず、個人からの税収が落ち込むことです。

最後に、今回の予算戦略と財政刺激策には通常以上の不透明感がつきまとうという点です。これは5月に総選挙を控えている事が原因で、税制措置が議会を通過するかは現時点では不明です。労働党が政権を取り戻した場合でも、同等の規模の刺激策が導入されると見られますが、歳出に対してより大きなフォーカスが置かれる可能性があり、新政権が今年後半にも補正予算を組むと見られることからも、刺激策導入の時期が後ずれする可能性があります。

RBAへの影響

この連邦予算案は家計や信頼感を押し上げる内容となっている一方で、経済や世帯所得の刺激策としては比較的控え目と言えます。同予算に盛り込まれた施策の実施時期や詳細を巡る不透明感は、プラスのアナウンスメント効果に水を差す可能性があります。つまり、経済を助成する事は確かであるものの、当社では、RBAは年内に2回の利下げを実施し、政策金利を1%へと引き下げるという見通しを維持します。

豪州資産への影響

現金と定期預金:金利は低下が見込まれることからも、現金や定期預金からのリターンは低水準にとどまるでしょう。

債券:連邦予算案からの大きな影響はないと見られます。豪州5年国債利回りは、足元で1.4%となっています。豪州債券は、米国やグローバルをアウトパフォームするものの、今後数年間は大きなリターンは期待できません。

株式:家計消費の押し上げは、(消費財銘柄を経由して)豪州株式市場に僅かながらもプラスの影響をもたらす可能性があります。建設業界もまた、活気づいた状況が続いています。しかし、株式市場に大きな影響が及ぶ可能性は低いと考えます。

不動産:不動産市場への影響もほぼないと考えられます。シドニーとメルボルンの住宅価格は、更なる下落を見込んでいます。

インフラストラクチャー:継続的なインフラ支出の強化は、時間の経過とともに、民営化案件が増加することとなり、民間投資家により多くの投資機会を提供するものです。

豪ドル:予算案だけによる豪ドルへの影響は限定的です。豪米金利差が縮小するとともに、豪ドルの下落が継続すると見られます。

最後に

世帯への支援提供と財政黒字化にフォーカスを置いた2019/20年度予算案は、賢明なものと言えます。しかし、実際の財政刺激策は、総選挙前の予算としては極めて控えめ内容となっており、5月に総選挙を控えていることからも、通常より不透明感が高くなっています。

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