先週行われた連邦予算案の発表では、道路や鉄道プロジェクトを中心に今後10年で1,000億豪ドルを投じるというインフラ支出計画の概要が明らかになりました。
その2日後、野党労働党ショートン党首がこれに対し、労働党は道路や鉄道網への投資として1,000億豪ドルを超える投資を行うと発言しました。
これらは極めて巨額の支出であり、全ての州と特別地域における投資が含まれていますが、豪州経済の長期的な成長ポテンシャルに十分な規模の投資と言えるのでしょうか?
インフラ投資は経済の繁栄への投資
マクロの観点から、インフラ投資は国経済の未来への投資だと考える事が出来ます。経済活動に大きな刺激を与えるものであり、過去を振り返っても、インフラ投資が経済の巻き返しを助成したケースは数多くあります。
最も有名な現代の一例といえるのが、世界恐慌の最中である1933年に、ルーズベルト米国大統領が発表したニューディール政策です。この一連の経済政策には、高速道路や橋梁、学校、公園を含む公共支出など、様々な改革が盛り込まれました。
これを受けて、米国で最も貧困した南部の州7つに電力(そして雇用)を供給するために、テネシー川流域開発公社(TVA)が設立されました。TVAは今日も、米国最大規模の電力公社です。
また、失業者の大量雇用を目的に公共事業促進局(WPA)が設立されました。同局が手掛けたプロジェクトは、学校の建設4,000件、病院の新設130件、下水道管の設置総長9,000マイル、植林2,400万本、橋の建設29,000件、道路の補修総長280,000マイルに上ります。
ルーズベルト大統領は、莫大な規模の景気刺激策を講じて大恐慌期から経済を救うという使命を負っていたわけですが、豪州経済の状況はこれ程まで悪化してはいません。しかし、ニューディール政策からの教訓は、主要な公共プロジェクトに対する幅広い支出は、将来長期にわたる計り知れない影響を及ぼすという事です。
ニューディール政策の支出は、米国の経済と社会に大きな変革をもたらしました。今日も残る米国の道路制度の生みの親であり、全国の都市や市場間の往来を可能にしました。
今後豪州の政権を握るのが誰であれ、ニューディール政策と同じオポチュニティが存在することに間違いありません。
メルボルンとジーロンを結ぶ時速150kmの高速鉄道プロジェクトなどへの投資は、2都市間の接続を大きく改善するものです。時速300kmの新幹線には及びませんが、ジーロンの地元住民にとっては、メルボルンまでの通勤時間が短縮され、利便性が高まります。
政府は、同プロジェクトに対して20億豪ドルの投資を公約しています。この波及効果は、地方経済の活性化、住宅価格の上昇や低下、都市部における交通渋滞緩和など、極めて莫大なものとなる見通しです。この様な投資こそが、ジーロン市にとって大きなゲーム・チェンジャーとなり得るプロジェクトなのです。
同プロジェクトの行方には注目が集まるでしょう。全国的にも、主要都市を中心としたハブ・アンド・スポーク型(主要拠点ハブを中心にネットワークを展開する)の鉄道プロジェクトの模範例にもなり得るでしょう。
同鉄道プロジェクトやその他プロジェクトからの恩恵は明らかであるものの、与党保守連合と野党労働党が発表したインフラ支出の規模は、対GDP比で見たインフラ支出の長期平均を下回っており、大規模なプロジェクトは鉄道と道路に偏っています。
民間資金活用のソリューション
国土が広く、人口が比較的少ない豪州では、鉄道や道路といった交通セクターの枠を越えた現代のインフラ整備に向け、官民一体となった取り組みが有効です。
オハイオ・バレーの天然ガス火力発電所やスカンジナビア半島の風力発電所など、米国や欧州では巨大な投資プロジェクトが進行しています。上下水道や廃棄物処理施設の開発プロジェクトには、何十億ドルという投資マネーが流れ込んでいます。
1930年代にそうであったように、社会に恩恵をもたらすインフラ計画の中核を成すのは電力や水道ですが、現代のモデルが異なるポイントは、公共そして民間の資金両方が活用されている点です。
その他にも、5Gネットワークの登場を背景としてデータセンターや通信塔、スモールセル基地局など、ルーズベルト大統領には想像も付かなかったインフラ・プロジェクトにも、世界中から多額の投資資金が集まっています。
政府の発表や野党労働党の発言において、これら種類のインフラ・プロジェクトに対する支出は、鉄道や道路と比較すると小規模にとどまっています。その他には、スノーウィ―・ハイドロ水力発電所の拡張に対する投資40億豪ドル規模などがありますが、与党・野党ともに、道路と鉄道に焦点をあてていることは明らかです。
各州には、「戦略的に重要な道路」プロジェクトに対する財源が振り分けられています。
ニュー・サウス・ウェールズ州は、シドニー西部の鉄道プロジェクトに35億豪ドル、M1パシフィック道路に対して16億豪ドルを受領しています。ビクトリア州では、メルボルン~ジーロン間鉄道プロジェクト以外に、郊外道路の改良に11億豪ドル、南オーストラリア州では、南北を結ぶ幹線道路に15億豪ドルが約束されています。
また、全国道路安全に関する一連の投資や、東海岸沿いを走る将来的な高速鉄道プロジェクトの開発に対する支出も盛り込まれました。
都市部の渋滞緩和に向けた資金枠は10億豪ドルから40億豪ドルへと拡大されました。
まとめ
公共インフラ・プロジェクトの多くは、最終的に民営化されます。これまでも、全国で空港や港湾、公益事業が民営化されており、今後も他のインフラ資産が民営化される見通しです。
インフラ支出の拡大を受けて、待望のインフラ開発への道が切り開かれる事になります。しかし、より重要なポイントとして、このインフラ支出が、豪州経済の長期成長を助成するに十分な規模であるのか、また、この成長に向けて十分な幅広いセクターがカバーされているのか、という疑問は残ったままです。
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