コミュニケーション

ウィークリー経済 2018年10月1日

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

先週の主な話題

先週のグローバル株式市場は、イタリアの財政危機についての懸念が再燃したことを受けて、米国株式市場は0.5%、ユーロ圏株式市場は1.1%下落しましたが、一方で日本株式市場は1%、中国株式市場は0.8%、豪州株式市場は0.2%上昇しました。債券市場では、財政懸念が再浮上したイタリア市場を除いて、利回りはほぼ横ばいとなりました。石油価格は、石油輸出国機構(OPEC)が生産量を据え置きを決定した後から上昇したものの、金属価格、鉄鉱石価格は下落しました。米ドルは、ユーロに対して大きく上昇し、豪ドルに対しても再び1豪ドル0.72米ドルを試す展開となりました。

9月の米国および日本、中国の株式市場は総じて好調であったものの、豪州株式は1.8%の下落となりました。この背景としては、豪州株式市場が8月に過去10年間の最高値を更新した後、ディフェンシブ株、消費関連株、金融株、高利回り株を中心に債券利回り上昇の影響を受けて下落したことが挙げられます。

最近実施された米中の関税が恐れていたほどのものではなかったことを受けて株式市場は上昇したものの、米国からの貿易を巡る脅威は消え去っていません。両国間の5回目の貿易交渉は実現しませんでした。中国は、自らの立場を表明し、より一層大幅な関税引き下げや、非関税障壁の削減を公表するとともに、米国の関税引き上げの影響を米国に対する全面報復ではなく財政刺激策による緩和を模索することで貿易問題を乗り越える方向性を示しています。また、トランプ大統領が中国は中間選挙に干渉していると非難したことや、低レベルの軍事的緊張の兆候が幾分か高まっていることから、米中間の緊張が拡大していると見られます。当社では引き続き、現在までの実際の関税措置は比較的小規模である一方、交渉解決は依然として程遠く、両国間の貿易紛争はさらに過熱化する可能性が高いと見ています。一方で、カナダも米国と北米自由貿易協定(NAFTA)改定案に合意しない可能性が高まっており、日米は新貿易交渉に入っていますが、トランプ氏は明らかに日本からの譲歩を引き出そうとしています。またフランスのマクロン大統領は、米国がパリ協定にコミットしない限り、米国とEUの新たな貿易協定に合意しないと述べました。したがって、貿易は市場にとって断続的な問題であり続けるでしょう。

米連邦準備制度理事会(FRB)は予想通りに0.25%の利上げを決定し、景気は堅調に推移し、今後も緩やかな利上げが見込まれることを示しました。FRBはもはや金融政策を「緩和的」とは表現していない一方で、引き締めからは程遠く、FRB関係者の金利見通し(いわゆるドットプロット)は、現在3%である長期中立レート見通しを上回る金利上昇を指し示しています。当社では12月の追加利上げ、そして来年さらに3回利上げすると予想しています。市場予想は、引き続き過度にハト派寄りです。米国の利上げが続くということは、豪ドルに対する継続的な下押し圧力となり、またグローバルで借入コストが上昇する限りにおいて、豪州の銀行が適切でない時期にローン金利を引き上げてしまうリスクを意味します。パウエル議長がFRBは経済を良好に維持することに集中しており、政情は考慮していないとの認識を示したように、トランプ氏のFRBの利上げに対する批判は明らかに影響を及ぼしていません。

米連邦最高裁判所判事候補のブレット・カバノー氏の指名を巡る問題は、共和党が上下両院で過半数を失うリスクを高めるでしょう。これにより、トランプ氏とその経済政策に対する当社の見方が変わることはない一方、同氏が弾劾される可能性は十分にはあります。しかし、上院では依然として罷免するほどの十分な票は集まらず、また議会は今までの経済政策を変更したり、ひっくり返すことはしないでしょう。いずれにせよ、11月6日の中間選挙前後にかけて市場の懸念材料になるでしょう。

イタリアの2019年予算の財政赤字が悪化する見通しあり、ユーロとイタリア市場にとってはマイナスですが、懸念されていたほどの悪化ではありませんでした。イタリアの連立政権が財政赤字の目標水準を国内総生産(GDP)比2.4%に拡大したことにより、ユーロが下落し、同国の株安・債券安要因となりました。GDP比2.4%という水準は、公的債務の対GDP比を低下させるには十分ではなく、欧州委員会との対立につながるでしょう。しかし、数ヵ月前に懸念されていたGDP比5~6%よりははるかに低い水準で、他の欧州諸国がイタリアに過度の圧力をかけるほどの高い水準ではありません(特に、フランスとドイツはイタリアの反ユーロのポピュリズムを刺激したくないでしょう)。むしろ、イタリアに規律を持たせるために、同国の国債利回り上昇を通した市場原理に任せる可能性が高いでしょう。したがって、イタリアの債券市場にとって良くはないものの、ユーロ圏にとって大惨事となることはありません。

世界経済指標の動向

米国の経済指標は引き続き堅調で、消費者信頼感は18年ぶりの高水準、消費支出や耐久消費財受注も好調で、輸入の増加も続いています。一方で、8月のコアインフレ率はFRBの目標とする2%の水準が続いており、これは政策金利引き上げをより積極的に実施する必要がないことを示しています。

ユーロ圏の景況感は9月に低下しましたが、依然として堅調であり、民間貸出の伸びは引き続き加速しています。

日本の労働市場は8月も堅調に推移し、鉱工業生産は上昇し、東京のコアインフレ率は前年同月比0.6%まで上昇しました。しかし、日銀の掲げる2%の目標にはまだ遠く及びません。

豪州経済指標の動向

豪州では、予算関連について良いニュースがありましたが、住宅価格をめぐるリスクが高まっており、またガソリン価格の上昇が消費支出に対する圧力となっています。

  • 2017-2018年の財政赤字は100億ドルで、5月の予想を80億ドル下回りました。その一部は支出の遅れによるものであるものの、政府は先行投資を増やすと発表しており、賃金上昇に関するリスクは残っているものの、政府は次回の選挙に向けてより多くの景気刺激策を提供する余地があることを示しています。
  • また、ABSの求人情報は8月までの3ヵ月間で大幅に減速したものの、前年比で16.5%増と好調を維持しています。

一方で:

  • 住宅市場においては、SMSF融資からの撤退する銀行が増加し、また包括的な信用調査(すなわち銀行間での顧客債務状況の共有)や所得に対する総負債比率を注視されるなど、複数の不動産を所有する投資家に対して締め付けが行われていることから、リスクが高まり続けています。特に後者については、150万件近くの投資不動産が、複数所有する投資家によって所有されていると推定されることから影響が大きいと見られます。
  • 不動産投資家に対する融資は、貸出基準の引き締めと需要減少の影響を受け、非常に弱い状態が続いています。
出所:RBA、AMPキャピタル
  • 先週の石油価格は、世界的な石油供給懸念に加え、イランや将来的にベネズエラからの供給が削減されることによって拍車がかかるのではとの見通しを受けて上昇しました。豪州において家計が支払う一週間当たりのガソリン料金は、1年前に比べて10ドル以上も高くなっています。そのため、ガソリン価格の上昇(がもし維持された場合)は、総合インフレ率の上昇要因となりますが、一方で家計支出に対する下押し圧力を高めることから、基調インフレ率の抑制要因にもなります。
出所:ブルームバーグ、AMPキャピタル

これらの懸案事項は今のところ概ね相殺し合っていることから、豪州準備銀行(RBA)が今後も長期にわたって政策金利を維持するという当社の見解を変更する理由は見当たりません。むしろ、次の政策金利の動きは「上昇するかもしれないし、下降するかもしれない」というニュージーランド準備銀行(RBNZ)のアプローチをした方が良いのでは、とさえ考えています。

今週の注目点

米国では、9月の労働統計が発表される予定で、雇用と賃金に焦点が当てられます。データは今回も強く、雇用者数は19万人増加、失業率は3.8%に低下すると見込まれますが、賃金成長率は、緩やかな上昇傾向を維持しつつも、前年比2.8%に低下すると見られます。その他の経済指標としては、9月のISM製造業景況指数(月曜日)、非製造業ISM指数(水曜日)、貿易収支(金曜日)の発表が予定されています。

ユーロ圏の8月の失業率(月曜日)は8.1%に減少する見込みです。

日本では、「日銀短観業況判断」(月曜日)の発表が予定されており、引き続き堅調に推移すると見込まれます。

豪州では、RBAが火曜日の会合で政策金利を据え置くと見られます。最近の経済成長と雇用統計は良好ですが、銀行の貸出基準引き締めにより消費支出と経済成長が脅かされる中、インフレと賃金上昇の加速を待っており、住宅価格の下落が加速するリスクが依然として存在しています。そのため、利上げは危険であり、RBAは早くても2020年までは利上げを行わないと見ており、次の動きが利下げとなる可能性も排除できません。一方、経済指標面では、9月のコアロジック住宅価格(火曜日)、8月の住宅建設許可件数(水曜日)、貿易収支(木曜日)、小売売上高(金曜日)などの発表が予定されています。

相場見通し

世界経済の成長が依然として堅調に推移し、企業の良好な業績の伸びを促し、また金融政策も依然として緩和的であることから、当社は年末までには株式市場が上昇すると考えます。ただし、貿易摩擦の脅威や、新興国市場の危機波及、FRBの利上げ継続、モラー特別検察官によるロシア疑惑捜査や米国中間選挙、イタリアの予算交渉を踏まえ、今後も時折ボラティリティが高まる局面や一時的に市場が弱含む可能性も十分にあると考えています。豪州株式市場については、不動産価格の下落や選挙を巡る不透明感がリスクを高めています。

債券投資からのリターンは低水準にとどまる中、豪州債券は、グローバル債券をアウトパフォームすると見られます。

非上場の商業用不動産やインフラは、相対的に高い利回りを求める投資家からの需要が引き続き追い風になると考えられますが、投資家の熱は冷めつつあります。

豪州では、パースやダーウィンでは不動産価格が底打ちし、ホバート、アデレード、キャンベラ、ブリスベンでは緩やかに上昇しているものの、シドニーやメルボルンでは更に10%ほどの下落が見込まれているため、全国主要都市の住宅価格は一段と鈍化すると見られます。

定期預金の金利は 2.2%近辺で推移しており、現金や銀行預金のリターンは引き続き冴えないものとなると思われます。

米国経済が豪州経済と比べて活況で、RBAキャッシュレートと米FF金利の差がさらにそのマイナス幅を広げると予想されることから、1豪ドル0.70米ドル近辺まで対米ドルでの下落トレンドが継続し、1豪ドル0.60米ドル台に突入する可能性もあると見ています。豪ドルのショート・ポジションは引き続きグローバル経済の変調(例えば貿易摩擦や新興国市場)に対する有効なヘッジとなります。

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