コミュニケーション

ウィークリー経済 2018年9月25日

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

先週の主な話題

先週のグローバル株式市場は、米中の貿易摩擦が懸念されていた程深刻化しなかったことから、市場ではリスク・オンの様相が確認されました。このため、株式市場、債券利回り、商品価格が上昇しました。また通貨では米ドルが下落し、豪ドルが上昇しました。米国株式市場は0.9%、欧州株式市場は2.1%、日本株式市場は3.4%、中国株式市場は5.2%上昇しました。豪州株式市場もグローバル市場の上昇に追随した動きとなりましたが、比較的ディフェンシブで高配当の特性を受けて0.5%の上昇に留まり、他市場をアンダーパフォームしました。

先週発表された米中間の貿易摩擦に関する最新の動向は、長い間警告されていた内容通りのものとなりました。米国の対中輸入に対する関税の引上げ水準と(2,000億米ドル相当の中国からの輸入品に対する追加関税は25%ではなく10%が適用)、中国の報復関税(米国からの600億米ドル相当の輸入品に対して5~10%の追加関税を課すものの、これは米国側の追加関税を下回る)は、いずれも懸念された程の水準ではありませんでした。中国が幅広い商品に対する関税の引き下げを計画していると報道されたことは好材料で、米国との交渉余地を残しています。また本格的な貿易戦争にはまだまだ長い道のりがあることも注目すべきことです。つまり、直近の報復関税が実施された後でも、米国の輸入総額の僅か12%に対してのみ関税が引き上げられる予定であり、全輸入品に対する平均関税率は僅か1.6%の上昇に留まり、インフレ率を0.2%押し上げ、経済成長率への影響は0.2%以下であることを意味しています。また中国経済に対する影響は、0.5%以下になると予想されます。現在の状況は、米国が全ての輸入品に20%の関税を課し、他の多くの国が報復関税を課して世界恐慌に繋がった1930年の状況には程遠いと言えます。

しかし米中の両国は、依然として重要な問題(知的財産保護等)に対して隔たりがあり、トランプ大統領が中国からの全ての輸入品に対して報復関税を課すと脅かしているため、貿易摩擦の深刻化が依然として起こり得ることが厄介な点です。中国経済は破綻には程遠く、関税からの経済的影響を相殺するため経済刺激策を使用していることから、トランプ大統領からの圧力に早急に対応することはありません。当社は、交渉による解決の可能性はあるものの、今年末および来年の初旬までは実施されないとの見通しを引き続き維持します。

ブレグジットは、貿易摩擦と並んで一進一退が続くもう一つの問題です。「四つの自由(人、物、資本、サービス)」とアイルランド国境が引き続き障害となっているため、英国を景気後退に陥れるリスクのある「合意なき離脱」に対する可能性がここ最近で再び拡大しています。依然として英国ポンドに買いを入れるのは時期尚早です。

世界経済指標の動向

米国の経済指標は引き続き堅調でした。9月のニューヨーク及びフィラデルフィア連銀製造業景気指数はいずれも堅調に推移し、マークイット製造業購買担当者景気指数(PMI)も上昇、コンファレンス・ボードの景気先行指数は引き続き上昇し、新規失業保険申請件数は一段と減少しました。住宅着工件数、建設許可件数、販売件数などの住宅関連データは、大きなモメンタムを見せていないものの、経済成長への横ばい/緩やかな寄与が続いており、少なくとも世界金融危機前の住宅ブームには依然ほど遠い状況です。

9月のユーロ圏製造業PMIは前月から僅かに低下したものの、着実な成長と足並みが揃った水準を維持しています。

日本銀行は、想定通り金融政策の変更は行わず、引き続き経済環境を「緩やかな景気拡大」と説明しました。また、安倍首相が、自民党総裁に再選され、アベノミクス継続の可能性が強まりました。8月のコアコア消費者物価指数(CPI)は前年同月比で0.4%上昇しましたが、2%のインフレ目標からは依然ほど遠い水準にあります。

豪州経済指標の動向

先週の豪州の経済指標では、豪連邦統計局(ABS)により4-6月期の住宅価格の下落が再度発表されたほか、熟練労働者不足が僅かに進んだことや、人口増加は継続していることが確認されました。住宅価格については、融資基準の厳格化、供給の増加、割安感の無さ、資本成長の期待低下が相まって、今後更なる下落を指し示しており、メルボルンとシドニーでは2020年までに住宅価格がピークから最大15%程度下落すると見ています。

一方、先日の60ミニッツ・リポートが伝えた不動産価格が暴落するリスクについてはどうでしょう?これに関しては幾つかポイントが挙げられます。60ミニッツを含め、豪州のメディアは過去10年間、定期的に30~50%の不動産価格の暴落予想を報じてきました。住宅ローン地獄・破綻の事例は、低水準の滞納率を示す実際のデータと整合していません。借り手はすでにここ数年間、あまり問題なくインタレスト・オンリーから元利返済ローンに切り替えています。60ミニッツで40~45%の価格の下落を声高に叫んでいたのはあくまでも「全ての条件が悪化した場合」によるものです。当社では、大幅な金利上昇や、失業率の悪化、または数年にわたる供給過剰(いずれも見込んでおりませんが)が発生しない限り、不動産価格の暴落が起こる可能性は低いとの見方を維持しています。ただし、現在において価格暴落が叫ばれ始めた10年ほど前よりもリスクは高まっており、シドニーとメルボルンで見込んでいるピークからの15%下落以上に落ち込めばハイリスクとなります。特に、王立委員会後に融資基準が過度に厳しくなり、政権交代後にネガティブ・ギアリングに制限がかかり、キャピタルゲイン税控除が半減するリスクを踏まえれば、この傾向は顕著となるでしょう。また、一部の人々にとってはFOMO(fear of missing out: 好機を逃す恐怖)がFONGO(fear of not getting out: 逃げ出すことが出来ない恐怖)に変わる大きなリスクが存在しています。

不動産価格の暴落に対する反駁ポイントの一つに、力強い人口増加の継続が挙げられます。1-3月期までの1年間で1.6%と高い増加率で推移し、これは先進国の中でも最高水準にあります。下のチャートで見られるように、近年の海外からの移住が人口増加の要因としてますます重要になってきています。

出所:ABS、AMPキャピタル

しかし、これには幾つかの条件があります。一部で移民の受け入れが停止するかもしれないリスクがあります。クイーンズランド州の人口増加の加速がブリスベンの住宅価格を下支えする一方、ニューサウスウェールズ州とビクトリア州の人口増加は鈍化し、その結果、これらの州では住宅価格の下支えがやや弱まっています。そして今まで新築住宅の供給は堅調な人口増加と同水準でなされてきたことから、一部の地域で供給過剰が見られる状況に陥っています。後者のリスクは、依然としてシドニーとメルボルンで顕著な高水準の住宅用クレーン数によって浮き彫りになっており、今後の市場に影響を及ぼすほどの多数の物件供給が依然残っていることを示しています。興味深いことに、豪州の住宅用のみのクレーン総数は528本で、米国のクレーン総数(住宅用・非住宅用)の300本、カナダの123本を大幅に上回っています。

出所:RLBクレーン・インデックス、AMPキャピタル

今週の注目点

米国では、中国との貿易紛争に関するニュースが引き続き注目されます。このほか、FOMC(水曜日)も注目点となります。FRBによる8回目となる利上げが見込まれ、これによってFF金利の誘導目標水準は2~2.25%に上昇し、さらなる緩やかな利上げの可能性を示しています。市場はこれを既に完全に織り込んでおり、FRBの利上げ見通しと「ドットプロット」に関するコメントに注目が集まるでしょう。FRBが金融政策の記述において「緩和的」という表現を削除する可能性がある一方、経済見通しは楽観的になると思われ、ドットプロットは引き続き緩やかな利上げと足並みを揃え、最終的には現在FRBが見込む長期の「中立的」金利水準である約2.75-3%を上回ると見られます。これは、市場が現在認識している今後3年半よりも短い今後2年間において、より利上げが実施される可能性が高いことを意味すると思われます。経済指標では、引き続き住宅価格の上昇や消費者信頼感の上昇(いずれも火曜日)、新築住宅販売件数(水曜日)や中古住宅販売仮契約(木曜日)の小幅増、耐久財受注(木曜日)の継続的な増加、堅調な個人消費支出(ただし8月のコア個人消費支出(PCE)デフレータは(金曜日)は前年比1.9%に低下)が予想されます。

9月のユーロ圏インフレ率は、金曜日に発表される予定で、前年比1%程度にとどまる見込みです。ユーロ圏の景況感指数は木曜日に発表されます。イタリアの予算案は金曜日までに発表される予定です。

金曜に公表される日本の経済指標では、労働市場の堅調さと鉱工業生産の回復が予想されます。

中国の製造業PMI(金曜と土曜)では、米中の貿易紛争の影響が注目されます。

豪州では、有効求人(木曜日)はやや減速し、緩やかな民間部門信用の伸び(金曜日)が継続すると見られます。また、ロイヤル・コミッションの中間報告書も公表される予定で、銀行貸出のさらなる引き締めを促すリスクがあります。

相場見通し

世界経済の成長が依然として堅調に推移し、企業の良好な業績の伸びを促し、また金融政策も依然として緩和的であることから、当社は年末までには株式市場が上昇すると考えます。ただし、貿易摩擦の脅威や、新興国市場の危機波及、FRBの利上げ継続、モラー特別検察官によるロシア疑惑捜査や米国中間選挙、イタリアの予算交渉を踏まえ、今後も時折ボラティリティが高まる局面や一時的に市場が弱含む可能性もあると考えています。豪州株式市場については、不動産価格の下落や選挙を巡る不透明感がリスクを高めています。

債券投資からのリターンは低水準にとどまると見られます。豪州債券は相対的にハト派的なRBAにサポートされ、グローバル債券をアウトパフォームすると思われます。

非上場の商業用不動産やインフラは、相対的に高い利回りを求める投資家からの需要が引き続き追い風になると考えられますが、投資家の熱は冷めつつあります。

豪州では、パースやダーウィンでは不動産価格が底打ちし、ホバート、アデレード、キャンベラ、ブリスベンでは緩やかに上昇しているものの、シドニーやメルボルンでは更に10%ほどの下落が見込まれているため、全国主要都市の住宅価格は一段と鈍化すると見られます。

定期預金の金利は2.2%近辺で推移しており、現金や銀行預金のリターンは引き続き冴えないものとなると思われます。

米国経済が豪州経済と比べて活況で、RBAキャッシュレートと米FF金利の差がさらにそのマイナス幅を広げると予想されることから、1豪ドル0.70米ドル近辺まで対米ドルでの下落トレンドが継続すると見ています。一方で、堅調なコモディティ価格を背景に、1豪ドル0.60米ドル台後半で下値抵抗線を形成すると見られます。豪ドルのショート・ポジションは引き続きグローバル経済の変調(例えば貿易摩擦や新興国市場)に対する有効なヘッジとなっています。

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