コミュニケーション

ウィークリー経済 2018年9月18日

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

先週の主な話題

先週のグローバル株式市場は、良好な経済指標、米中両国の新たな貿易交渉の実施に関する話題、トルコの政策金利引き上げ後のエマージング市場の反発などが支援要因となり、大半の市場が上昇しました。米国市場は1.2%、ユーロ圏市場は1.4%、日本市場は3.5%、豪州市場は0.4%上昇しました。ただし、中国市場は引き続き下げ圧力にさらされ、1.1%下落しました。債券利回りは全般的に上昇しました。米ドル安の進行に伴い、コモディティ価格も概ね値上がりし、豪ドルも1豪ドル0.7150米ドル近辺まで小幅に上昇しました。

米国の貿易摩擦は年を通して徐々に悪化していますが、その脅威が時折やや後退することもあります。先週は実際にそのような状況が現実し、ムニューシン財務長官の打診により米中通商協議が再開される可能性が報道されました。株式市場は、過去に通商協議のニュースが報じられた際と同様に好意的に反応しましたが、私はそれほど大きな材料とは受け止めていません。協議を行うことは、全く協議が無いよりはましで、仮に実現したなら、次回の協議は直近に開かれた協議よりも上のレベルである閣僚級の出席者を伴い、また、解決策を模索するのは中国、トランプ大統領双方の利益につながります。特に、トランプ大統領の支持率はまたも低下圧力を受ける状況にあり、中間選挙で民主党が下院で過半数を取り戻す見通しが強まっています。企業側は関税に反対する広報活動を活発化させていると報じられており、現時点では、消費者向け価格の上昇を引き起こさず、そしてその結果として反発を招くリスク無しに、米国が関税を引き上げることは困難です。従って、新たな協議を徒労と判断するのは間違っていますが、米中間の通商協議は既に4回も行われており、特に5月にムニューシン財務長官が最後に試みた協議で目新しい成果が無かったことを考慮すると、今回の協議で大きな進展が達成できるかは疑問です。米国側からすれば、この協議を理に適っているように見せかけ、中国に対抗する同盟国の協力体制を作り上げるための交渉戦術に過ぎないのかもしれません。いずれにしても、トランプ大統領は、ムニューシン財務長官が協議を提案したにもかかわらず、次の追加関税で中国からの輸入品目に対して2,000億米ドルの関税を課す手続きを進めるよう指示したと報道されています。この関税賦課がさらなる交渉上の戦略である可能性が考えられますが、実際はどうなのでしょうか?絶望的な状況で、両陣営とも自国の方針を貫き続ける模様です。当社の基本シナリオでは、より多くの関税を課す戦略が適用されると見られます(ただし、2,000億米ドルの関税については、段階的な実施となる可能性があります)。中間選挙までは、協議による解決はなさそうです。

先週は貿易関連で明るいニュースがありましたが、当社は引き続き短期的な株価調整に対する慎重な姿勢を維持します。その理由としては、1年の中で株価が季節的に弱含む時期に入ったこと、エマージング市場や貿易、関税にまつわるリスクの存在、モラー特別捜査官によるトランプ大統領のロシア疑惑捜査と米国の政治リスク、中国経済の成長鈍化、高値圏にある米国のハイテク株などが挙げられます。

米国の政治的リスクに関しは、政府の現行の資金が再び底をついた場合、10月1日から政府機関が再び閉鎖される危険性があります(そうです、この問題が復活しています!)。11月の中間選挙では、民主党が下院の支配権を握った場合(実際そうなる可能性が高いと見られます)、トランプ大統領の弾劾と、その結果、市場に好影響をもたらす主要な経済政策の終焉に対し投資家が懸念を抱き、神経質な状況が生じると見られます。弾劾と経済政策の行方に関しては、民主党はおそらくトランプ大統領の弾劾に動くと予想されますが、クリントン大統領の在職中と同様、トランプ大統領がかなりの悪事を働かない限り、上院で67人もの議員が大統領の追放に賛同する票を投じる可能性は低いと考えられます。いずれにせよ、マイク・ペンス副大統領は同様の経済政策を実施し、しかもノイズは低減されることになり、また、トランプ大統領は減税など企業を優遇する多くの政策を既に実施しています。とはいえ、このような考察をしても、最初の内は市場が懸念を抱くのを止めることはできないでしょう。

世界経済指標の動向

米国では、力強い経済活動を示す経済データに加え、穏やかなインフレ指標が示され、「ゴルディロックス(熱過ぎず、冷え過ぎることもない適温の相場)」が継続しました。先週は再び一連の良好なデータが示され、8月の中小企業楽観度指数が過去最高を記録したほか、JOLT求人件数も企業が極めて前向きな雇用姿勢を維持していることを示唆し、新規失業保険申請件数も非常に低い水準にとどまりました。一方、8月の小売売上高は市場予想を下回る増加率となりましたが、その一部は価格上昇に伴う鈍化が要因となっており、いずれにせよ、7月のデータが上方修正されたことから、全体的には依然として力強さが見られます。当然ながら、状況がかなり理想に近い場合は、その後悪化するのみとなるため、この状態を手放しで喜べる訳ではなく、危険が潜んでいる可能性もあります。ただし、8月の生産者物価指数や消費者物価指数(CPI)は前月を下回り、少なくともインフレ圧力(強まった場合は米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げにより積極的になり、成長を脅かす可能性が存在)が過度ではないことが示されています。とはいえ、米国経済が絶好調な上で財政による景気刺激は継続しており、フェデラル・ファンド(FF)レートは今後1年程度で長期的な中立金利(2.5~3%)と推定される水準を上回る必要性が生じる可能性があると、より多くのFRB理事が言及している模様です。貿易やエマージング市場の状況悪化といった深刻な問題が発生しなければ、FFレートが中立金利を超える確率は高いと見られますが、現在の3ヵ月に1度の利上げペースでは、実現するまでにかなりの時間を要するでしょう。

ハリケーン「フローレンス」の被害によって、FRBが今月後半に予定される利上げを見送る可能性は極めて低いと見られます。このような災害がもたらす不動産や人的被害は悲惨ですが、どちらかといえば、再建活動が短期的に全般的な経済成長を押し上げる形となります。2005年のハリケーン「カトリーナ」が当時6週間毎に実施されていたFRBの利上げに影響を及ぼすことはありませんでした。

欧州中央銀行(ECB)は政策金利を据え置いた上で、ドラギ総裁は雇用市場の改善を評価し、イタリアの予算問題もさほど問題視することはなかった一方、世界貿易に関しては懸念を表明しましたが、リスクは均衡した状態にあるとの見解を示しました。全体的にECBは10-12月かけて量的緩和政策を終了する軌道をたどり続けていますが、当社の見解は利上げがかなり先で、2020年までは実施されないと予想します。PMIは小幅な反発を示したものの、7月の弱い鉱工業生産はこの見解と合致しています。

イングランド銀行も政策金利を据え置きました。

日本で発表された経済指標は概ね良好で、設備投資の力強さが示されたほか、景気ウォッチャー調査での現状判断が改善し、また、4-6月期GDP成長率も上方修正されました。

中国の8月の経済活動を示す指標は強弱まちまちの内容となり、小売売上高が市場予想を上回ったほか、失業率も小幅に低下し、鉱工業生産も市場予想と一致する伸びとなりましたが、固定資産投資には弱さが見られました。一連の経済指標は、経済成長が小幅に鈍化した可能性があるとはいえ、大幅な減速は起きていないことを示唆しています。一方、8月の信用の伸びはやや拡大しており、緩和的な政策の効果が波及している可能性を示しています。消費者物価指数(CPI)はやや伸びが加速しましたが、コアCPIは2%に留まっており、従って物価動向が政策見通しに影響を及ぼす公算は小さいと見られ、貿易摩擦の影響に対応すべく、さらなる刺激策が導入される可能性があります。

豪州経済指標の動向

豪州で発表された経済指標はまちまちの内容で、雇用関連や企業景況感には力強さが見られた一方、信頼感は低下が続きました。雇用関連の経済指標は豪州経済の強さの源泉となっており、8月もこのケースが該当しました。朗報なのは、フルタイム雇用の伸びも堅調であり、この状況が不完全就業の低下を促し、力強い雇用の伸びは現状の家計所得に見られる強さの源泉にもなっています。ただし、これに対して失業率と不完全就業率を合算すると、13.4%と非常に高く、賃金の伸びが極めて緩やかであることを示唆しています。一方、8月のNAB企業業況感指数は、企業の状態が引き続き良好であることを示唆したものの、信頼感は一段と低下しており、9月のウエストパック消費者信頼感指数も大幅に低下し、豪州政府の政治的混乱や住宅価格の下落は、消費者信頼感の改善に水を差しています。このような強弱感の対立する背景から、当社は豪州中央銀行(RBA)の利上げがかなり先であるとの見解を維持します。

出所:NAB、ウエストパック、AMPキャピタル

今週の注目点

米国では貿易と関税に関するニュースに引き続き焦点が集まるでしょう。経済指標に関しては、マークイットの9月の製造業およびサービス業PMIが金曜日に発表されますが、いずれも55近辺の水準で堅調な経済成長を示唆すると見られます。また、複数の住宅関連指標が発表され、9月のNAHB住宅市場指数(火曜日)は堅調な水準を維持する見込みで、8月の住宅着工件数(水曜日)はまずまずの回復を示し、中古住宅販売件数(木曜日)は前月からの増加が予想されます。今週はニューヨークおよびフィラデルフィア地区連銀の製造業景気指数も発表されます。

ユーロ圏の9月の製造業およびサービス業PMI(金曜日)はともに54.5近辺の堅調な水準を維持すると見られます。

火曜日から水曜日にかけて開催される金融政策決定会合で、日銀は極めて緩和的な金融政策に変更を加える可能性は低いと見られます。金曜日にはインフレ関連の指数が発表され、生鮮食品とエネルギーを除いたCPIは前年同月比+0.4%のわずかな上昇にとどまると見られます。

豪州では、火曜日に豪州統計局(ABS)が発表する4-6月期住宅価格指数は、1%程度の下落率が見込まれており、既に民間部門の調査で示された同期の住宅価格の下落を確認する形となるでしょう。同じく火曜日に公表されるRBAの金融政策決定会合議事要旨は、同行が次の動きは利下げよりも利上げとなるものの、現時点で行動を起こす緊急性はないとの予想を繰り返すと見られます。1-3月期の人口に関連する統計(木曜日)は、引き続き堅調な人口の増加が明らかになるでしょう。

相場見通し

世界経済の成長が依然として堅調に推移し、企業の良好な業績の伸びを促し、また金融政策も依然として緩和的であることから、当社は年末までには株式市場が上昇すると考えます。ただし、季節的に株式市場は軟調な時期であり、また米中間の貿易摩擦の脅威や、FRBの利上げがエマージング市場へ及ぼす影響、ロシア疑惑を巡るムラー特別検察官の聴取や米国中間選挙、イタリアの予算交渉などを控え、今後も時折ボラティリティが高まる局面や一時的に市場が弱含む可能性もあると考えています。豪州株式市場については、不動産価格の下落や選挙を巡る不透明感がリスクを高めています。

債券投資からのリターンは低水準にとどまると見られます。豪州債券は相対的にハト派的なRBAにサポートされ、グローバル債券をアウトパフォームすると思われます。

非上場の商業用不動産やインフラは、相対的に高い利回りを求める投資家からの需要が引き続き追い風になると考えられますが、投資家の熱は冷めつつあります。

豪州では、パースやダーウィンでは不動産価格が底打ちし、ホバート、アデレード、キャンベラ、ブリスベンでは緩やかに上昇しているものの、シドニーやメルボルンでは更に10%ほどの下落が見込まれているため、全国主要都市の住宅価格は一段と鈍化すると見られます。

定期預金の金利は 2.2%近辺で推移しており、現金や銀行預金のリターンは引き続き冴えないものとなると思われます。

米国経済が豪州経済と比べて活況で、RBAキャッシュレートと米FF金利の差がさらにそのマイナス幅を広げると予想されることから、1豪ドル0.70米ドル近辺まで対米ドルでの下落トレンドが継続すると見ています。一方で、堅調なコモディティ価格を背景に、1豪ドル0.60米ドル台後半で下値抵抗線を形成すると見られます。豪ドルのショート・ポジションは引き続きグローバル経済の変調(例えば貿易摩擦やエマージング市場)に対する有効なヘッジとなっています。

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