コミュニケーション

ウィークリー経済 2018年9月10日

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

先週の主な話題

先週のグローバル株式市場は、エマージング市場、貿易戦争、米国のソーシャル・メディア企業に対する規制の可能性に関する懸念を受けて、下落しました。米国株式市場は1%の下落、ユーロ圏株式市場は2.6%の下落、日本株式市場は2.4%の下落、中国株式市場は1.7%下落しました。豪州株式市場は、グローバル経済への脅威を受けた下落から、ここ数か月間にわたり回復力のある動きを見せていましたが、今週は2.8%下落して6月以来の最安値を付けました。債券利回りはイタリアでは低下したものの、概ね上昇しました。商品価格は、鉄鉱石が上昇したものの、原油と金属価格が下落しました。通貨市場では、米国の雇用統計が好調であったことや貿易戦争の脅威に対する懸念から下落し、対米ドルで2016年初頭以来の最安値をつけました。

2018年は現在までのところ、金融市場のボラティリティが上昇した年として認識されていますが、足元のエマージング市場、グローバル貿易と関税、トランプ大統領と米国の通商政策、中国経済の成長、およびハイテク株に関するリスクを考慮すると、このような投資家の認識は2018年通年でも変わることはないと予想されます。

  • エマージング市場危機は引き続き深刻化しており、経常赤字を抱えるトルコやアルゼンチンが被った下落幅を更に上回る暴落が起こることを投資家が懸念しているため、エマージング株式市場は1月の高値から現地通貨建てベースで14%下落し、同通貨市場は2月の高値から16%下落しています。
出所:ブルームバーグ、AMPキャピタル
  • エマージング株式市場は、予想PERで11倍と割安な水準で取引されており、長期的な見通しでは良い買い場ですが、過去のエマージング市場危機の標準的な下落幅からすると、今回の下落は穏やかであり(例:2015年~2016年に27%下落)、米ドルが上昇トレンドを維持し(エマージング諸国における債務返済問題が深刻化)、中国経済が引き続き減速し、貿易摩擦の脅威が拡大し続ける限り、エマージング市場の下落幅はいとも簡単に拡大すると予想されます。これまでのところ、銀行等を通じた先進国への影響は軽微ですが、1997年~1998年に見られたように、エマージング市場危機が深刻化するほど、先進国へのコンテイジョン・リスクは大きくなります。
  • 現在までのところ、米・カナダは交渉の突破口が見いだせないことから北米自由貿易協定(NAFTA)消滅のリスクが拡大し、さらに重要な動きとしては、米国は2,000億米ドルの中国からの輸入品に最大25%の報復関税を発動したため、米国による貿易紛争は依然としてエスカレートしつつあります。完全に関税が実施された場合、米国は中国からの輸入総額の半分に関税をかけることになりますが、この割合は、米国の総輸入額の僅か10%に過ぎないため、関税の報復合戦によって米国の輸出入が大幅に落ち込んだ1930年からは依然として程遠い状態にあります。しかし、中国の経済成長率は最大0.5%、米国の経済成長率は0.1~0.2%程度落ち込む可能性があります。米国の中間選挙が終了するまで、交渉による解決は実施されないと予想されます。
  • トランプ大統領を巡るリスクは、トランプ大統領による衝動的な行動を抑えることを目的としたホワイトハウス側による「抵抗」に関する報道も含めて、増え続けています。そして、民主党が中間選挙で下院の過半数を獲得する可能性の兆しを考慮した場合、投資家の動向は同選挙に先立って神経質な展開になることが予想されます。
  • 米国株式市場の上昇幅に対する一部のハイテク株が占める割合が拡大してきたことから、特にハイテク企業に対する規制圧力が続いた場合、米国市場は相当の下落リスクに晒されています。

当社のベースケースでは、世界の経済成長は引き続き堅調に推移し、企業の増益基調と金融緩和政策が相まって、株式市場の上昇トレンドを維持すると見られます。一方でこれまで述べてきたような課題は、主要先進国の株式市場における短期的な調整リスクを大きくはらんでいます。これまでのところ、米国の株式市場、そして最近まで豪州株式市場はほぼ動揺を見せませんでしたが、豪州株式市場に関しては下落圧力にさらされ始めています。そして2015年から2016年にかけて世界的に成長減速に対する懸念が高まった時においても、他の株式市場が失速する中、米国株式市場はしばらく底堅さを維持しましたが、その後弱含むこととなりました。総じて言えば、短期スタンスの投資家にとっては、引き続き比較的慎重な投資戦略が求められる時期となっています。

少なくとも脅威の一つは若干後退しているように思われ、それは9月27日提出期限の2019年度予算案を巡るイタリアのポピュリスト政権と欧州委員会(EC)の対決でしょう。財政赤字上限への到達可能性が示唆されるものの、今のところ同国政府は欧州連合(EU)が要求する予算規律規定を遵守する姿勢を示しています。

話を豪州に戻せば、大方の予想通り、高まる短期金融市場での調達コストを背景にオーストラリア・ニュージーランド銀行とコモンウェルス銀行がウエストパック銀行に続き、住宅ローン変動金利を平均0.15%引き上げました。資金調達コストの上昇は平均で0.09%程度と見られるため、当社の想定以上の引き上げでした。債務残高の高まりを鑑み、これは事実上の金融引き締めとも言え、例えれば15年前のRBAの0.25%の利上げに相当します。 これが住宅価格への更なる重石となり、RBAがすぐには利上げを実施しない理由付けとなるでしょう。

世界経済指標の動向

米国の経済指標は強さを維持しています。7月の建設支出は弱かったものの、雇用統計は好調で、ISM製造業景況指数は非常に強い内容でした。需要の伸びも強かったことから、輸入が増加し貿易赤字は拡大しました。8月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が20.1万人増と予想を上回る伸びを示し、失業率も引き続き3.9%と引き続き超低水準にあり、不完全失業率も7.4%に下落しました。賃金成長についても、目標とする4%には程遠いものの、前年比で2.9%と2009年以降で最も高い伸びを示しています。

出所:ブルームバーグ、AMPキャピタル

日本の家計支出は7月に改善しましたが、現金給与額は6月の前年比3.3%から前年比1.5%へ低下しました。

中国の財新PMIは、政府のPMI指数と対照的に8月は僅かに低下しました。中国では、貿易懸念高まる中、政府による景気刺激策の継続が見込まれます。

豪州経済指標の動向

第2四半期の豪州経済は前年比力強く成長しましたが、今後は減速が予想されます。第2四半期のGDP成長率は前期比0.9%、前年比3.4%と予想を大きく上回りました。しかし今後、住宅建設許可件数の減少は住宅投資の減速を意味し、家計貯蓄率が過去10年間で最低水準の僅か1%にとどまる中、住宅価格の下落は消費支出を圧迫し、政局の不透明感から企業投資が緩慢になる可能性が高く、また干ばつや米中間の貿易戦争の懸念が成長を圧迫するリスクもあります。そのため、不況は予想していないものの、今年度の経済成長率は2.5-3%のペースで減速すると見ています。

その他、ANZ求人広告件数が幾分モメンタムを失い、住宅金融は縮小トレンドを継続、貿易黒字は僅かに低下しましたが、PMI製造業は底堅さを維持しました。

先週公表された様々な指標は、インフレ圧力が依然として非常に低いことを示唆しました。メルボルン・インスティテュート・インフレ・ゲージは、前年比2.1%で横ばいでした。

8月の住宅価格は10ヵ月連続で下落し、今後も下落トレンドが継続すると見られます。コアロジック住宅価格によると、主要都市の住宅価格はさらに0.4%下落、前年同月比では2.9%下落しました。当社では、シドニーとメルボルンの価格は、銀行貸出基準の厳格化、供給の増加、価格上昇期待の低下、マイナスギアリングやキャピタル・ゲイン税割引の影響に対する懸念により、今後さらに10%下落すると見込んでいます。

2017年度に経済成長は加速したものの、成長は再び減速しており、賃金の伸びおよびインフレ率は依然低く、さらに住宅価格の低下、干ばつ、グローバル貿易摩擦といった様々な問題が成長の足かせとなると見られことから、RBAは2020年後半までは政策金利を据え置くと予想され、利下げの可能性も完全に排除できません。

今週の注目点

来週以降の注目点は、貿易を巡る米国の中国に対する次の一手となりそうです。経済指標の注目は8月の小売売上高(金曜日)で、大幅な上昇が見込まれています。消費者物価指数は木曜日に公表予定で、FRBが重視していると見られるコア個人消費デフレーターは、2%をやや上回る水準となりそうです。その他では、中小企業楽観指数(火曜日)、JOLT求人(火曜日)、鉱工業生産(金曜日)が公表される予定です。

木曜日に開催されるECBの理事会では、今年末の量的緩和策の終了そして、ずっと先の利上げ開始が確認されると思われます。当社では、ECBの利上げは早くとも2020年以降になると見ています。

中国では8月の経済指標が公表され始めます。生産者物価指数の低下、一方で物価指数は横ばい(月曜日)が見込まれています。また小売売上高は横ばいの一方、鉱工業生産や投資の伸びは加速すると予想されています。信用データも控えています。

豪州では、NAB企業景況感(火曜日)とウエストパック消費者信頼感(水曜日)はいずれも低下が見込まれていますが、最近の政治の混乱の影響を計る上で注目されます。8月の雇用者数変化(木曜日)と失業率の公表も控えています。

相場見通し

世界経済の成長が依然として堅調に推移し、企業の良好な業績の伸びを促し、また金融政策も依然として緩和的であることから、当社は年末までには株式市場が上昇すると考えます。ただし、季節的に株式市場は軟調な時期であり、また米中間の貿易摩擦の脅威や、FRBの利上げがエマージング市場へ及ぼす影響、ロシア疑惑を巡るムラー特別検察官の聴取や米国中間選挙、イタリアの予算交渉などを控え、今後も時折ボラティリティが高まる局面や一時的に市場が弱含む可能性もあると考えています。豪州株式市場については、不動産価格の下落や選挙を巡る不透明感がリスクを高めています。

債券投資からのリターンは低水準にとどまると見られます。豪州債券は相対的にハト派的なRBAにサポートされ、グローバル債券をアウトパフォームすると思われます。

非上場の商業用不動産やインフラは、相対的に高い利回りを求める投資家からの需要が引き続き追い風になると考えられますが、投資家の熱は冷めつつあります。

豪州では、パースやダーウィンでは不動産価格が底打ちし、アデレードやキャンベラ、ブリスベンでは緩やかに上昇しているものの、シドニーやメルボルンでは更に10%ほどの下落が見込まれているため、全国主要都市の住宅価格は一段と鈍化すると見られます。

定期預金の金利は 2.2%近辺で推移しており、現金や銀行預金のリターンは引き続き冴えないものとなると思われます。

米国経済が豪州経済と比べて活況で、RBAキャッシュレートと米FF金利の差がさらにそのマイナス幅を広げると予想されることから、1豪ドル0.70米ドル近辺まで対米ドルでの下落トレンドが継続すると見ています。一方で、堅調なコモディティ価格を背景に、1豪ドル0.60米ドル台後半で下値抵抗線を形成すると見られます。豪ドルのショート・ポジションは引き続きグローバル経済の変調(例えば貿易摩擦やエマージング市場)に対する有効なヘッジとなっています。

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