主なポイント
世界金融危機(GFC)から投資家が学ぶ重要なレッスンは、以下の7 点です。(1)GFC 発生のタイミングには常にサイクルがある、(2)危機の発生サイクルは異なっているが、市場はどの場合でもバリュエーションやセンチメントの面で極端な水準に達する、(3)高いリターンは高いリスクを伴う、(4)金融工学もしくは理解困難なプロダクトに対して懐疑的となるべき、(5)過度なレバレッジを避ける、(6)適切な分散を図ることの重要性、(7)アセットアロケーションの重要性。
はじめに
8月から10月までの期間は、金融市場危機の記念日となる期間です。つまり、1929年の株価暴落、1974年の弱気相場における最安値、1987年の株価暴落、1998年のエマージング市場およびLTCM危機、そして言うまでもなく2008年のGFCといった全ての危機が、この期間内で引き起こされています。GFCは2007年に始まりましたが、リーマン・ブラザーズが2008年9月15日に経営破綻し、このイベントをきっかけにグローバル金融システムの存亡にかかわる程の大きな問題となって波及しました。当然、それぞれの市場危機の記念日には、「この危機は再燃するのか?」や、「この危機から学んだ主な教訓は」といった疑問が投げかけられます。最悪の市場危機となったGFCの10周年記念となる今、これらの疑問を考察していきましょう。
GFCの簡単な説明
リーマン・ブラザーズの破綻とGFCを巡る出来事は死ぬほど聞き飽きていると思いますが、ここでも簡単な説明をさせて頂きます。GFCは大恐慌以来、最悪の金融危機でした。銀行間での貸出が凍結され、複数の金融機関の救済が必要となり、50%以上の株式市場が下落し、戦後最悪の景気後退となりました。基本的に、GFC以前の低金利環境において、米国の住宅購入者に対する過剰な住宅ローンが住宅ブームを誘発しましたが、このブームは金利が上昇し、供給が急増した段階で崩壊しました。
- ローンの約40%は、サブプライムや必要書類の審査が厳格でない借り手といった、返済能力の低い借り手が対象となりました。そしてその多くはノンリコース・ローンだったため、住宅価値が下落した場合、借り手はただ家の鍵を返すだけでした。要するに「ジングルメール(借り手がローンの支払いができない場合、貸し手(銀行)に抵当となる家の鍵を郵送すること)」です。
- こういった、返済能力の低い借り手を対象としたローンは、住宅所有者を増やし、融資における差別をなくすことを目的とした公共政策によって奨励されました。一部の人はこれを「金融の民主化」として称賛していました。
- これらは、貸出基準の大幅な緩和や、サブプライム・ローンを証券化する金融イノベーションによって実現されたものです。このように証券化されたサブプライム・ローンは、一部のローンでデフォルト・リスクがあるものの、幅広いエクスポージャーでリスクを相殺することを前提に、AAAの格付けが付与されました。これらの証券化商品はレバレッジがかけられ、担保付債務証書(CDO)という名前で世界各国で販売されました。しかし証券化の後、同ローンに気を配る「銀行の経営者」はいませんでした。
- これらは全て、銀行が国際金融市場からの資金調達を拡大させたことが要因となります。
これらの状況は、住宅価格に対する値ごろ感の低下、住宅市場に対する過剰供給、17回にわたる連邦準備制度理事(FRB)による利上げなどにより、米国住宅価格が下落し始めた2006年に変化しました。このような状況を受け、サブプライムの借り手は当初適応された「ティーザー・レート(勧誘目的の低金利のレート)」の期間終了後、借り換えが難しくなりました。そのため、これらのローンはデフォルトし始め、証券化商品に投資した投資家は損失を被りました。これらの状況は、BNPが運用するファンドに組み入れているCDOの評価が出来なくなったことで3ファンドの解約を停止した2007年8月にグローバル投資家の注目を集めましたが、これが契機となってクレジット・クランチが起こり、銀行の資金調達コストが急激に上昇し(政策金利対比の短期借入金利の急上昇により確認される。以下のグラフ参照)、その結果、資金調達が困難な市場環境となったことが、株式市場の急落を招きました。

株価は反発したものの、2007年10月下旬にピークを迎え、信用収縮の悪化、世界経済の不況突入、住宅ローンのデフォルト急増、リーマン・ショックの余波で多くの銀行が破綻したことなどから、約55%もの急落の幕開けとなりました。
この危機は世界中に波及し、ギアリングが急上昇したことから投資銀行やヘッジファンドが健全な資産を売却せざるをえず、他資産にも波及したことから損失が拡大する状況に陥りました。米国のサブプライム債の投資家は世界的に広がっており、信用喪失が銀行間の融資凍結や超高水準の借入コスト(前述のチャート参照)に繋がったことから、一体誰が一番危ないのかという懸念が強まりました。これらはいずれも信頼感指数や経済活動に影響を及ぼしました。
このGFCの原因は、住宅ローン、米国政府、銀行、格付け機関、規制当局、投資家、金融機関が過度なリスクを負ったことにあります。政府による銀行救済や大規模な金融・財政刺激策が実施され、GFCは2009年に終止符が打たれました。しかし、その後数年間にわたって低成長率及び低インフレによる余波が継続しました。経済の観点から、GFCは以下の点がハイライトされます。
- 財政・金融政策は機能する。自由市場経済が下降スパイラルに陥ったときは政府、中央銀行、そしてグローバルな連携により再び経済を軌道に乗せる役割があります(金融緩和策は金持ちに恩恵をもたらすだけであると主張する者もいますが、何も策を講じなければ20%以上の失業率と不平等の拡大に繋がる可能性が高かったでしょう)。必要ならば「出来ることならどんな手段もとる」的アプローチが常識として共有されることを願っています。
- 金融危機から正常に戻るには時間がかかる。ケネス・ロゴフ教授及びカーメン・ラインハート教授の共同研究によると、10 年ほどかかるとのことです。というのも、信頼感指数への打撃は、貸出・借入を落ち込ませ、その後数年間にわたり個人消費や投資に影響するからです。大事なのはこれを許容し、刺激策を早期に打ち止めにするのではなく、マッスルメモリもやがて衰えるように永続的だと考えないようにすることです。
- 「混乱は起こる」。経済危機のたびに「二度と起こらないようにする」と願う一方、歴史が語るには熱狂、パニック、暴落は「創造的破壊」のプロセスの一部であり、資本主義諸国における物質的繁栄の加速的な広がりに繋がってきました。ここで必要となってくるのは金融規制が、自由市場が軌道から外れたときに発生しうる経済的な悪影響を最小限に抑えながらも、経済的繁栄に必要なダイナミズムが止まらないようにすることです。
また発生するのか?
歴史はバブルと暴落に満ちており、各世代が忘れてしまう頃に再び起きることは避けられず、一部の革新に対するユーフォリアから生まれた過去のバブルの経験を教訓として、再度念頭に置いておくべきでしょう。各バブルの種子はしばしば前者の灰の中にまかれます。幸いなことに、GFC 後はハイテクブームや米国の住宅・融資ブームの規模に相当する大きなバブルは発生しておりません。この10 年間では前半に金と商品価格の急騰がありましたが、はじけるまでにそれほど大きくはなりませんでした。ビットコインや他の仮想通貨もその例ではありますが、世界中に多大な影響を及ぼすほどの十分な投資家を惹きつける前にはじけました。フェイスブックやアマゾンのようなE コマース銘柄は次の候補となりますが、1990 年代後半のハイテクブームで見られた収益水準や無限大の株価収益率と比較しても程遠いです。

GFC の後退を経て、世界の債務残高は世界全体のGDP と比較して過去最高水準に達し、明確な懸念材料となっています。しかし、このことだけで、別のGFC が起こると決まったわけではありません。世界債務の対GDP 比率は永久に上昇傾向にあり、GFC 後の先進国の債務拡大の多くは公的債務であり、GFC 以前と比べて低い金利水準にとどまっているため、債務負担は小さいです。さらに、景気後退の兆候や、それに伴うGFC で見られたような深い弱気相場の兆候は、いまだに見られていません。インフレ率は低く、世界的な金融政策は依然として緩和的であり、テクノロジーや住宅への過剰投資は広がっておらず、銀行貸出基準はGFC 以前ほど緩和されていません。

また、銀行の自己資本比率の引き上げや預金者からの資金調達の拡大を求めるなど、金融規制が強化されています。GFC 後の債務急増の多くは、先進国というよりも、むしろ新興国市場の家計債務の増加に起因したもので、新興国市場がより大きな危機に晒されていることを示唆しています。
経済危機は将来的なある時点では避けられませんが、GFCとは大きく異なったものである可能性が高いと考えています。
投資家がGFCから学ぶべき7つのレッスン
投資家がGFC から得られる重要な教訓は、以下のとおりです。
- 常にサイクルがある。「経済の大平穏期」という言葉はGFC 前の一時的なはやり文句でしたが、GFC は、長期にわたる好景気、低インフレ、高リターンが続いた後には必ず良くないことが起こるということを思い起こさせてくれます。もしリターンが良好すぎて持続可能でないのであれば、それは恐らくそうなのでしょう。
- 各ブームの破綻サイクルは異なるものの、市場は極端な方向に流されやすい。つまり、上昇基調のど真ん中にあるアセットはピークで過大評価され、過度に愛され、ボトムで過小評価され、見向きもされないということが起こり、2009 年上半期に債券および株式市場でこうしたことが目撃されました。こうした環境は、忍耐強い逆張り的投資家に利益享受の機会を提供します。
- 高いリターンはより高いリスクを伴う。リスクは何年もの間、表面化しないかもしませんが、誰もが完全に安心した時に、リスクはGFC で見られたように悲劇に変わります。ボラティリティの過去の測定は、後部ミラーを見て運転しようとするようなものです。
- ファイナンシャル・エンジニアリングや理解しにくい商品に対して懐疑的であれ。GFC 時に投資家が最も大きく痛手を被ったのは、ジャンク債をファイナンシャル・エンジニアリングによって誰も理解できないようなAAA 格に仕立て直された商品によってでした。
- 過剰な借入れあるいはそれに准ずることを避ける。ギアリングは全てが上手くいっている時には問題ありませんが、物事が反転すると損失を拡大し、貸し手が自信を失い、満期を迎える負債のロールオーバーを断ったりするため、ポジションの手仕舞いを余儀なくされる可能性があり、また証拠金コールが発生し、投資家が買うべき時期に売却を強いられることがあります。
- 真の分散の重要性。リートやヘッジファンドは、GFC 以前、低利回りの国債に代わる選択肢として人気がありましたが、危機を経て、これらのアセットは大きく下落しました(実際、オーストラリアの不動産投信(REIT)は79%下落)。一方、国債はスター・パフォーマーでした。一旦危機が起こると、真のセーフ・ヘイブンを除いた全てのアセットの相関関係は急速に高まります。
- 資産配分の重要性。GFC は、投資において最も大切なのは株式、債券、現金、不動産などのアセットミックスだということを気付かせてくれます。特定の株式やファンド・マネジャーに対するエクスポージャーはその後で考慮されるべきものです。
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重要事項
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