今回の株式市場の急落は、様々な要因がトリガーとなりましたが、とりわけ米国の金利上昇や米中の貿易摩擦に対する懸念が大きな部分を占めています。
株式市場はもう一段下落するかもしれませんが、今回の市場下落は、ひとつの調整にすぎないと考えています。
投資家が留意すべき重要な点は、調整することは自然なことだということ、景気後退が見られない限り深刻な弱気相場は起こる可能性は低いこと、下落しつくした後に株式を売却することは損失の確定に繋がること、株価の下落は投資家がより安く株式を買う機会を提供してくれること、株式は下落した一方で配当はなくならないこと、そして最後に、長期的な投資戦略を見失わないために、このような時期にはノイズを遮断することが最善であることです。
はじめに
我々は時として株式相場の荒波に直面することがあります。直近では2月辺りの米国のインフレ及び金利上昇懸念や、米国の制裁関税が開始されたことを受け、米国株式市場及びグローバル株式市場は約10%、豪州株式市場は6%の下落となりました。8月と9月という季節的に軟調になりやすい期間も驚くほどうまく乗り越え、米国株式市場は最高値を更新し、豪州株式市場は10年来の高値を記録しました。しかし、今回米国、グローバル、豪州株式市場が共に直近高値から約7%急落し、心配事リストの再来となりました。今回は投資家への課題を見つめ、市場急落の背景を探ります。
市場急落の背景は何か?
今回の株式市場の急落は様々な要因を反映しています。
- 投資家は非常に好調な米国経済によって連邦準備制度理事会(FRB)が一層引き締め姿勢を強め、これが債券利回りの更なる急ピッチの上昇を引き起こし、経済成長や株式市場のバリュエーションを脅かすと再度懸念し始めたこと。
- 米中間の貿易紛争は、引き続き激化し、他の地域にも波及していること。
- 米国株式市場の上昇(およびアウトパフォーム)の主要な牽引役となってきたハイテク株のバリュエーションが幾分高く、国内での規制強化に直面していること(これについてはトランプ大統領がかねがね脅しをかけてきた)。
- グローバルでの旺盛な需要と供給減の脅威を背景とした原油価格の上昇が、インフレと成長への懸念を高めていること。
- 米国の金利上昇などを背景とした新興国の苦境は、最近の国際通貨基金(IMF)の世界経済成長見通しの下方修正に見られるように、世界経済成長の脅威となっていること。
- トランプ大統領やモラー特別検察官によるロシアゲート疑惑捜査、そして来たる中間選挙をめぐって米国の動向に引き続き神経質になっていること。
- イタリアの予算をめぐるユーロ圏での緊張の高まりは欧州株式市場の重荷となっていること。
- 10月は市場変動の比較的大きい月として知られており、今年の10月は1987年のブラックマンデーの31周年にあたり、僅かな懸念を生んでいるように見られること。
株価は急速に下落しているがゆえに、テクニカル的には売られ過ぎとなり、短期的には反発する可能性があります。しかし、これらの問題の多くは、改善する以前に悪化してしまう可能性を踏まえ、更に市場が下落するリスクをはらんでいます。
投資家が考えるべきこと
数十億ドルもの金額が株式市場から蒸発したと新聞紙上で喧伝されている今回の市場の急落は(同じような見出しの紙面の人気が高まるというのはおかしな話ですが)、もちろん自分の資産の目減りを見たくない多くの投資家にとってストレスとなっています。しかし、この難しい局面において投資家は以下に挙げる幾つかの点に留意するべきです。
まず第一に、5-15%程度の調整が周期的に訪れるということは、株式市場にとっては健全で普通のことだということです。例えば、1995年から2000年初頭にかけてのITバブル期では、米国株式市場は、5%を超える下落が7回もあり、その下落幅としては6%から最大19%、その平均は約10%という下落率でした。同じ時期、豪州株式市場は、5%から16%の下落幅で平均8%の下落率を8回経験しています。これらの下落は全て、好調な市場の裏返しとも言えます。2003年から2007年の強気相場の期間、豪州株式市場は7%から12%の下落幅で5%を超えるような下落を5回も経験しています。最近では、豪州株式市場は2012年に10%の下落、2013年に(量的緩和の縮小を受けて)11%の下落、2014年に8%の下落、2015年4月から2016年2月までの間に20%の下落、今年初めに7%の下落を経験しましたが、これらすべての下落は株式市場が段階的に上昇する過程で起こったものです。同様のことがグローバル株式市場にも言えますが、この場合、好調な上昇トレンドの過程で起こっています。次の図をご覧ください。下落は痛みを伴うこともありますが、株式市場の調整は市場参加者の過信や、過剰なリスクを取ることを抑制することから健全な証拠であるといえます。

これに関連して、株式市場は過去多くの年において周期的に訪れる数多くの調整局面で『懸念の壁』を乗り越えてきており、結局のところ長期的なトレンドで見ると上昇し、他のより安定した資産クラスよりも高いリターンを提供しています。株式市場で繰り返される変動は、長期的なより高いリターンに対する対価であると考えられます。

第二に、調整局面(5%-10%の下落)があるのかどうか、もしくは(世界金融危機(GFC)で見られたような)本格的な弱気相場ではない軽めの弱気相場(20%の下落で、且つ比較的直ぐに反発する2015年から2016年に経験したような相場)となる主な要因は、景気後退に陥るか、そうでないかにかかっています。このことは特に米国に当てはまります。次表は、1970年代以降で米国株式市場が10%以上下落した時期を示しています。やや雑然としていますが、この表が説明しやすいのでこれを使ってお話したいと思います。一番左の列は下落した期間、左から二番目の列は下落した月数、三番目の列は高値から底値までの下落率、四番目の列は下落が景気後退につながったか否か、五番目の列は底値から1年後までの上昇率、最後の列は株式市場の下落に関連して暦年ベースでの騰落率を示しています。下落が景気後退に関連している場合は赤でハイライトしています。下から二番目の行は全期間の平均騰落率、一番下の行は景気後退に関連した期間における平均騰落率となっています。

上記の表には幾つかの注目ポイントがあります。まず第一に、景気後退を伴う市場の下落はより長期間、且つ下落幅も拡大する傾向にあります。第二に、このような場合は一年全体で見るとマイナスのトータル・リターン(キャピタル・ゲイン+インカム・ゲイン)を伴う可能性が高いと見られます。そして最後に、景気後退を伴って株価が大幅に下落した後は、反発が期待されます。
つまり、米国において景気後退が差し迫っているかどうかは、米国株式市場が大規模な下落相場に見舞われるかどうかという観点から非常に重要となります。豪州株式市場にも同じことが当てはまります。当社では、米国およびグローバルでの景気後退は差し迫ったものではないと考えています。
- 世界的に高い水準を維持している景況感及び消費者信頼感は、まだ個人消費や企業投資を力強く牽引し始めたばかりです。
- 米国はFFレートを引き上げていますが、現在の金融政策は引き締めとは程遠く、グローバルで非常に緩和した状況にあり、また豪州も同様の状況です(欧州、日本、および豪州は依然として、金融引き締めから程遠い状況にあります)。したがって現在は、景気後退を引き起こすような金融引き締めからは程遠い所にいます。
- 財政刺激策は2019年に米国の経済成長を後押しし、FRBによる利上げの影響を一部相殺すると予想されます。
- 債務の拡大、過剰投資、生産能力の限界、インフレの兆候は現在確認されておらず、これらの兆候は通常、米国や世界各国、豪州において景気後退に先行して現れます。
これらを考慮すると、グローバルで企業業績の成長が今後も続く可能性は高く、株式市場の下支え要因になると見られます。以上のような理由から、今回の株価下落は本格的な弱気相場というよりも、一時的な市場の調整と考えます。
第三に、株価の大幅下落後における株式の売却、より保守的な投資戦略へのシフト、スーパーアニュエーションといった選択肢は、損失を確定してしまうことになります。株式市場から数十億ドルが蒸発したといった話題を聞くと、持ち株を売りたくなる誘惑に駆られるかもしれません。しかし売却によって、ただの評価損が回復の見込みのない実現損に変わってしまうことになります。
第四に、株式や成長資産が下落した時は、これらは割安となることから、長期的なリターンの獲得機会が提供されます。つまり重要なことは、株価の反発が提供される機会を探ることです。市場の底値を捉えることは不可能ですが、一つの方法として、相場が下がった時に買って平均コストを下げることです。
第五に、株価は下落したとしても、配当は引き下げられていません。このため、十分に分散が取れている株式ポートフォリオから受け取ることができる配当収入は、特に銀行預金と比較した場合、依然として魅力的です。

第六に、株式やその他の関連資産は、市場が最も弱気になったとき、つまり、あなたや他のすべての人が市場に対して最も否定的な感情を抱いているときに、しばしば底を打つものです。ですから、トリックは群衆の動きに逆らうことです。ウォーレン・バフェットの格言にあるように、「皆が強欲な時に臆病に、皆が臆病な時に強欲に」です。
そして最後に、ノイズを遮断することです。このようなときには、否定的なニュースを取り巻く熱狂が最高潮に達します。市場急落で株式市場から数十億ドルがいっぺんに吹っ飛んだと報じ、危機を警告することにより、新聞は売れ、ネットの閲覧が増えるのです。しかし、こうした見出しはしばしばノイズにすぎません。反対に、市場が回復し株式市場に数十億ドルが戻った話であるとか、長期で見れば株価は右肩上がりで推移しているといったことはあまり話題にされません。しかも、こうした否定的なニュースは何の視点も提供せず、パニックに加担するだけです。こうした全てのことが、浮上した投資機会を捉えることはもちろんのこと、適切な長期戦略へのフォーカスを困難にします。したがって最善の方法は、ノイズを遮断して冷静になることです。分かっていますよ。時に言うが易し行うは難しだってことを。それでもです!
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