コミュニケーション

ウィークリー経済 2018年10月29日

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

先週の主な話題

先週は世界経済の成長見通しに対する不安感が継続し、大半の主要株式市場が下落しました。米国株式市場は3.9%、ユーロ圏株式市場は2.6%、日本株式市場は6%、豪州株式市場は4.6%下落しました。ただし、景気刺激策が好感された中国株式市場は1.2%上昇しました。通例通り、株価の大幅な下落を受けた資産の安全な逃避先需要に伴い、債券利回りは低下しました。鉄鉱石価格は上昇した一方、原油および金属価格は下落しました。先週は米ドルが上昇し、豪ドルの重石となりました。

株式市場の調整が継続しており、大幅な株価下落が起きた際にはよくあることですが、この状況が世界経済の成長に対するより広範な懸念につながる展開となっています。直近の高値から安値までグローバル株式市場は約9%、豪州株式市場に関しては11%ほど下落しています。市場が底打ちしたと判断するのは時期尚早ですが、当社はこれが大規模なベアマーケット(弱気相場)ではないとの見解を維持します。米国での金利上昇、米中間の貿易摩擦、ハイテク株の調整、新興国の抱える問題、米国の中間選挙、イタリアの予算案、世界経済および企業業績の拡大がピークをつけた兆候など、一連の不安要因が株価の足を引っ張っています。過去にも同様の現象は起きていますが、投資家は現在、米国の冴えない企業決算のニュースや、ユーロ圏で低下する購買担当者景気指数(PMI)を目の当たりにしており、この状況が新たな世界経済の成長に対する不安感を生み出しています。テクニカルの観点からは、株式は再度売られすぎの領域に達しており、反発する可能性がありますが、2015年から2016年にかけて世界経済の成長に対する不安心理が引き起こした約20%の下落に見舞われる可能性も考えられます。これが現実となった場合は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを休止する、また、欧州中央銀行(ECB)が量的緩和策を延期するなど、状況の好転を図り何らかの政策対応が必要となる公算があります。当然のごとく、中国は既に金融緩和を開始しています。

ただし、以下の主要なポイントは心に留める価値があるでしょう。

1. 株価調整は自然な現象です。世界および豪州株式市場は2012年以降、7%から20%の株価下落を何度も経験しています。次のチャートをご覧ください。

出所:ブルームバーグ、AMPキャピタル

2. 私たちが株価調整、あるいは世界金融危機の際に経験した大規模なベア・マーケットには至らない穏やかなベア・マーケット(例えば20%の下落)に陥るか否かは、米国の景気後退に左右されますが、現時点ではそれに先駆けて発生する超過在庫は見られておらず、経済成長率がピークをつけた可能性があるとはいえ、景気後退に陥る可能性はかなり低いと見られます。株式市場は度々リスクに過剰反応することに加え、「株式市場は9回も景気後退を予測しているが、現実となったのは5回だけである」と指摘したノーベル賞経済学者のポール・サミュエルソンの言葉を思い出して下さい。

3. 大幅な下落の後に持ち株を手放すのは、評価損を実現損に変えることになります。

4. 株式の価値が値下がりした場合、割安感が強まることになり、収益の獲得見通しも改善するため、ある意味で株価下落は良いと言えます。

5. 株価は下落したものの、配当の低下は起きておらず、従って、十分に分散が図られたポートフォリオを保有する場合、獲得を目指す配当収入に変化はありません。実際に、豪州で上昇した配当利回りは現在、6%近辺に達しています。

6. 全員がパニック状態に陥った時に株価は底打ちします。それがいつになるか予測は困難ですが、一般大衆が極めて悲観的になったタイミングに注目することが、一つの手法として挙げられます。

7. 最後に、投資家として成功を収めるには、冷静さを保つ必要がありますが、悲観的なニュースが最高潮に達した現在のような時期にそれは困難なことです。それゆえ、ノイズを低下させ、少々リラックスすることが最良の策と思われます。

このような視点は、2018年10月12日発行のオリバー・インサイトでより詳しく説明してあります。

もう一つ言及する価値のある現象が存在します。10月は株式市場の荒い値動きが特徴となる月として知られています。10月は株価が下落した後に反発することが度々あるため、時にはベアキラー(弱気派殺し)として呼ばれます。ここで重要なのは、米国で株式市場は伝統的に11月、12月を通して(そして豪州では12月に)強含む点です。この傾向は米国で中間選挙が実施される年(大統領就任後2年目)にとりわけ顕著で、特に選挙にまつわる不透明感が解消された後に明確になります。実際、米国の株式市場は中間選挙後の12ヵ月間において下落を見せたことはありませんでした。

今週のエコノミスト紙の表紙は「豪州は最高」と題し、雲を突き抜けてジャンプするカンガルーの姿を描いていますが、これは豪州にとって災いの元となるのでしょうか?同紙は優れた表紙を作成しますが、2009年にブラジルのキリスト像がコルコバードの丘からロケットのように飛び立つ画像を表紙に描きながら、2013年には同じ像が煙を上げて発射地点に墜落する姿を採用しており、私は今週号を見てそれを思い出しました。「雑誌表紙指標」を調べて見る価値がありそうです。

世界経済指標の動向

米国で発表された経済指標は、強弱がやや分かれる内容となりました。新築住宅販売件数は、直近に公表された住宅関連の活動状況を表す経済指標と合致して引き続き弱さが見られたものの、住宅価格指数は上昇傾向が継続しました。耐久財受注はまずまずの内容で、10月のPMIも上昇し、新規失業保険申請件数も極めて低い水準にとどまりました。7-9月期のGDP成長率は前期比年率換算で+3.5%となり、市場予想を小幅に上回りました。最終需要の伸びは、非常に好調な消費支出や公的部門の需要がけん引役となり+3%を記録した一方、企業の設備投資や住宅部門の弱さによって部分的に相殺されました。10-12月期の成長率は小幅ながらさらに鈍化する可能性があるものの、近い将来に景気後退が起きる兆候は示されていません。

米国の決算シーズンは中間地点に達しましたが、企業業績は全般的に好調で、82%が利益で、また58%が売上高で市場予想を上回っており、増益率予想は前年同期比+24%に上昇しています。ただし、4-6月期から利益水準の伸びは鈍化しており、不透明な環境下で投資家は業績が失望を招いた企業を厳しく評価し、その結果、株価は予想を上回った企業の上昇幅と比較した場合、より大きな下落幅を記録しています。

出所:ブルームバーグ、AMPキャピタル

市場の変更予想が皆無であったように、ECBは定例理事会で金融政策を現状で据え置き、また、直近の弱い経済関連のデータを重視することはありませんでした。ECBは依然として12月にQEを終了する道筋を歩んでいますが、もう一弾の低利の銀行向け融資制度(必要な場合は「長期資金供給オペ(LTRO)」を実施)を活用する可能性に言及しており、利上げのタイミングは依然としてかなり先と見られます。一方、ユーロ圏の業況感を示す10月のPMIは、引き続き52.7と適度な水準にあるとはいえ再び低下し、ユーロ圏経済の成長減速が継続しているとの懸念が高まりました。

日米欧のPMIを以下に示しました。端的に言うなら、米国は横ばいで推移しており、日本は上昇中である可能性があるなかで、欧州は唯一低下基調を辿っています。従って、主要先進国では経済成長が落ち込む兆候は見られませんが、それは少なくとも現時点で表面化していない現象に過ぎません!

出所:マークイット、ブルームバーグ、AMPキャピタル

中国では個人所得減税の原案が公表され、その規模は予想された対GDP比0.5%を上回る模様です。

豪州経済指標の動向

今週は豪州での経済指標の発表が少なかったものの、実際に発表されたデータには弱さが見られました。コモンウェルス銀行/IHSマークイットPMIの発表した10月の総合PMI速報値は51となり、18ヵ月前の58から低下し、また、熟練労働者の求人数は6ヵ月連続で低下しました。

今週の注目点

米国では、金曜日発表の雇用統計に再び注目が集まり、非農業部門雇用者数は19万人の堅調な増加、失業率は3.7%と変わらず、平均時給の伸びは前年同月比+3.1%が見込まれます。一方、個人消費支出(月曜日)は実質ベースでの力強い消費支出が予想され、コア個人消費支出(PCE)デフレーターは前年同月比+2%と、前月と同水準での推移となる模様です。住宅価格指数はさらに上昇し、消費者信頼感指数も高水準を維持すると予想されます(ともに火曜日)。7-9月期の四半期雇用コスト指数(水曜日)は前年同月比+2.7%が見込まれ、10月の米供給管理協会(ISM)製造業景況指数は、約59と良好な水準にとどまり(木曜日)、貿易収支は赤字額がやや増加する可能性があります(金曜日)。7-9月期の決算発表も継続します。

ユーロ圏では火曜日に7-9月期のGDP成長率が発表され、前期比+0.3%、前年同期比+1.8%の緩やかな伸びが見込まれます。また、9月の失業率は8.1%と横ばい、10月のコアCPIは前年同月比+1%と小幅な加速が予想されます(ともに水曜日)。

日本では雇用関連の統計が発表され(火曜日)、引き続き強い内容となる一方、鉱工業生産は落ち込みが見込まれます(水曜日)。

日銀(水曜日)とイングランド銀行(木曜日)はともに政策決定会合で政策金利を現状で据え置くと予想されます。

中国では10月のPMIが発表され(水曜日と木曜日)、成長がさらに減速する兆候が示されるかに注目が集まるでしょう。

豪州では、7-9月期の四半期消費者物価に注目が集まり(水曜日)、総合インフレ率は前期比+0.4%、前年同期比+1.9%と足元の基調は落ち着いた水準にとどまると予想され、燃料価格やタバコ税の上昇は育児補助金の増額や電力・ガス料金の低下によって部分的に相殺される見込みです。コアインフレ率は前期比+0.4%、前年同期比+1.9%の水準にとどまると予想されます。一方、住宅建設許可件数は8月の大幅な減少後、9月には+3%の反発が予想され(火曜日)、信用の伸びは鈍化傾向が継続し(水曜日)、コアロジック公表の住宅価格データは、さらなる下落が見込まれます(木曜日)。貿易収支は黒字額がやや縮小し(同じく木曜日)、9月の小売売上高は前月比+2%の増加が予想されています(金曜日)。企業の業況感を示すPMIも木曜日に発表されます。

相場見通し

世界経済の成長が依然として堅調に推移し、企業の良好な業績の伸びを促し、また金融政策も依然として緩和的であることから、当社は株式市場の上昇トレンドが続くと考えます。ただし、貿易摩擦の脅威や、新興国市場の危機波及、米国中間選挙、イタリアの予算交渉を踏まえ、短期的にもう一段の調整局面を経験するリスクは大きいと見ています。豪州株式市場については、不動産価格の下落や選挙を巡る不透明感がリスクを高めています。

債券投資からのリターンは低水準にとどまる中、豪州債券は、グローバル債券をアウトパフォームすると見られます。

非上場の商業用不動産やインフラは、相対的に高い利回りを求める投資家からの需要が引き続き追い風になると考えられますが、投資家の熱は冷めつつあります。

豪州では、パースやダーウィンの不動産価格が底打ちし、ホバート、アデレード、キャンベラ、ブリスベンでは緩やかに上昇しているものの、シドニーやメルボルンでさらに15%ほどの下落が見込まれているため、全国主要都市の住宅価格は一段と鈍化すると見られます。

定期預金の金利は 2.2%近辺で推移しており、現金や銀行預金のリターンは引き続き冴えないものとなると思われます。

米国経済が豪州経済と比べて活況で、RBAキャッシュレートと米FF金利の差がさらにそのマイナス幅を広げると予想されており、また豪ドルは弊社の目標である1豪ドル0.70米ドルに近くまで既に下落していますが、さらに1豪ドル0.60米ドル台に突入する可能性もあると見ています。豪ドルのショート・ポジションは引き続きグローバル経済の変調に対する有効なヘッジとなります。

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