コミュニケーション

ウィークリー経済 2018年10月15日

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

先週の主な話題

先週のグローバル株式市場は、売られ過ぎの水準から金曜日に反発したものの、金利および債券利回りの上昇や米中間の関係悪化を背景に、米国主導で急落する展開となりました。米国株式市場は4.1%、ユーロ圏株式市場は4.8%、日本株式市場は4.6%、中国株式市場は7.8%、豪州株式市場は4.7%下落しました。資産の安全な逃避先への需要を反映して債券利回りは全般的に低下し、金価格も追い風を受ける展開となりました。鉄鉱石価格は上昇し、豪州にとって朗報となった一方、原油価格は下落しました。豪ドルは米ドルの下落によって押し上げられる形となり、1豪ドル0.71米ドル台を回復しました。

また戻ってきました。株式市場は再び突発的なボラティリティの上昇に見舞われており、深刻な弱気相場の始まりにはなりそうにないとは言え、ボラティリティは一段と上昇する可能性があります。株式市場は、時折厳しい局面を迎えます。直近では2月に米国のインフレおよび金利上昇懸念を背景に難局が訪れ、米国株式市場は10%、豪州株式市場は6%下落しました。株式市場は、季節的に弱含む傾向のある8月と9月を驚くほど調子良く乗り切りました(豪州を除く)。しかし、一連の懸念材料が株価の下押し要因となっています。これまでのところ、株価は、全体として直近の高値から約7%下落しました。米連邦準備制度理事会(FRB)、インフレ、債券利回りに対する懸念、ハイテク株に対する脅威、米中間の紛争激化、原油価格の上昇、新興国問題、間近に迫る米国の中間選挙、モラー特別検察官によるトランプ大統領の調査に関連するリスク、イタリアの予算に関したユーロ圏の緊張にまつわる懸念が続いていることから判断すると、金曜日に株価が売られ過ぎの水準から反発したものの、さらに弱含む可能性は依然として残されています。また、通常見られる影響の世界的な波及を考慮すると、豪州株式市場を含む主要株式市場の大半は引き続き左右されると思われます。しかし、当社はこれが深刻な弱気相場の始まりになるとの考えには懐疑的です。というのも、弱気相場への流れには、米国の景気後退が必ず付随することを歴史が証明しているからです。アメリカの金融情勢は、逼迫にはまだほど遠い状態です。財政刺激策は引き続き効果を発揮しており、通常、景気後退の前兆とされる(過剰投資や負債の増加などの観点に基づく)行き過ぎの兆候はありません。アメリカの景気後退は、まだかなり先のことと思われます。景気後退どころか、企業の業績動向、つまり株式市場は短期間の下落から回復し、一段と上昇し続ける可能性が示唆されます。

トランプ大統領が主張しているように、FRBは「狂って」しまい、「制御不能になって」いるのでしょうか。いいえ。実際、利上げを実行してより正常な金利水準に戻すという責務を果たしています。経済状況が利上げを支持しているからです。ただし、インフレの落ち着きを理由に、利上げは段階的に行っています。パウエルFRB議長の発言を見ると、数週間前にハト派寄りの見解を示し、1990年代後半に利上げを見送り続けたアラン・グリーンスパン元FRB議長の政策対応と同様の方向に転換したように思われた後、最近はよりタカ派的なトーンを強めました。これは、実際には現状に何も変化が起きていな中での方向転換と捉えられ、少々混乱を招いた可能性があります。トランプ大統領は、FRBの利上げを批判し続けていますが、経済にとって必要なことを止めさせることはできません。トランプ大統領が、必然的に訪れる次回の景気後退についてFRBを批判することで、FRBの独立性を脅かすリスクがあります。歴史を見ると、政治家が中央銀行を管理下に収めた場合は、物事が悪い結果に向かうことが示されています。

少なくとも、米国財務省が「中国は人民元を操作していない」との見解を示したことや、トランプ大統領と習国家主席が11月のG20サミットで会談することに合意したとの報道など、米中間の貿易に関しては、良いニュースがいくつかありました。前者については、米国財務省が人民元は「操作」されていると認定する際に採用している、全ての基準に合致しているわけではありません。そうです。中国は米国との間に巨額の二国間貿易黒字がありますが、全体の経常収支黒字幅は小さく、為替介入も少額です。人民元は、豪ドルの下落と同じ理由、すなわち米国が金融政策を中国よりも引き締めたことで下落してきました。後者の会談については、会話を全くしないよりはましです。しかし、アメリカが中国の政策に対して抱く不満の大きさを考えると、トランプ大統領と習国家主席の間で画期的な問題解決が達成されるかは、現時点では不明です。

ブラジル大統領選挙の第1回投票で見られたジャイル・ボウソナロ氏の強さは、最終投票の勝利を暗示しています。このことは、短期的にはブラジルの資産に対しプラスに寄与すると思われますが、長期的に見ると、そうでない可能性もあります。今後見込まれる右派のボウソナロ大統領の就任と右派主導の議会の組み合わせに伴い、景況感が高まり、法人税減税や規制緩和などの企業寄りの政策が打ち出されると考えられます。しかし、彼はポピュリスト(大衆迎合主義者)で、ブラジルの巨額な公的債務や持続不可能な年金制度に対して充分な対応を行う公算は小さいと予想されます。ボウソナロ氏の反民主主義的な姿勢も懸念材料です。したがって、ブラジルが短期的な活況に恵まれる可能性はありますが、長期的な問題は残ると思われます。

世界経済指標の動向

先週発表された米国の経済活動を示す指標は多くなかったものの、9月の中小企業楽観度指数は依然として過去最高水準近辺で推移しており、従業員への報酬も力強い伸びが見られ、また、新規失業保険申請件数も極めて低水準にとどまりました。一方、9月の生産者物価指数(PPI)および消費者物価指数(CPI)は市場予想よりも弱く、コアCPIの伸びは前年同月比+2.2%と前月から変化なく、FRBのインフレ率目標をやや下回る+1.9%近辺で推移する個人消費支出(PCE)コアデフレーターと合致する水準にあります。物価動向の経済データ全ては、FRBが3ヵ月に1度といった緩やかなベースにとどめ、利上げを継続する動きと整合性が取れています。

日本では8月の機械受注が大幅に増加したうえ、9月の景気ウォッチャー調査の数値もかなりの底堅さを示しました。

中国の9月の財新サービス部門購買担当者景気指数(PMI)は上昇し、国家統計局の非製造業PMIと一致した動きとなっており、堅調なサービス業が弱さの見られる製造業を部分的に補っている可能性を示唆しています。中国の9月の輸出および輸入はともに前年同月比で14%程度の増加となり、今後の鈍化が見込まれるものの、現時点では力強さが見られました。一方、中国人民銀行が大半の銀行の預金準備率を引き下げたほか、中国国務院は定例会議でさらなる景気対策を進める可能性を示唆しました。

豪州経済指標の動向

豪州では9月の企業景況感および10月の消費者信頼感はやや改善が見られましたが、ともに最近の高い水準をかなり下回っています。一方、4-6月期の住宅着工件数は住宅建設活動のピークアウトと一致して減少しましたが、まだ建設作業が終了していない戸数は記録的な水準にあり、2009年の3倍以上にのぼるため、軟調な住宅購入者の市場に依然として多くの供給が控えていることを示唆しています。住宅ローンの落ち込みも継続しています。このような状況全ては、現在進行する住宅価格の下落と整合性がとれています。

出所:豪州統計局、AMPキャピタル

豪州準備銀行(RBA)は最新の金融安定報告で、貿易問題やリスク・プレミアムの低さを指摘しつつも、世界経済の状況を引き続き前向きに評価し、豪州で鈍化する住宅市場や、家計債務にまつわるリスクに関しても、依然として相対的に楽観的な姿勢を示しました。ただし、同行は既存の住宅ローン利用者の一部が借り換えに困難を強いられており、また、融資基準の厳格化が住宅市場の減速を悪化させる可能性(ただし、それほど高くない)がある点を認めました。住宅ローンが受ける圧迫や物件の差し押さえが話題となっているにもかかわらず、主要銀行の不良債権は主に西オーストラリアでは上昇しているものの依然として低い状態にあることは注目に値します。

今週の注目点

米国では月曜日に発表される小売売上高が適度な伸びとなり、力強い雇用の増加、高まる資産効果、減税、高水準にある信頼感に支援されて消費支出は引き続き強さを保っている状況を示すと見られます。他の指標では、鉱工業生産は緩やかな増加となり、JOLT求人件数からは引き続き良好な雇用環境が示され、NAHB住宅市場指数も依然として堅調な水準を維持すると予想されます(全て水曜日)。住宅着工件数(水曜日)は大幅な増加となった8月からの反動減が見込まれ、中古住宅販売件数(金曜日)も小幅な低下が予想されます。今週はニューヨーク地区とフィラデルフィア地区の連銀製造業景気指数で製造業の業況に関する調査も公表されます。一方、直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が発表され(水曜日)、FRBが引き続き緩やかな利上げを実施する軌道を維持し、最終的には「中立金利」を上回る水準にまでフェデラル・ファンド(FF)レートを引き上げる姿勢が改めて確認されると見られます。本格化する7-9月期の企業決算は、経済状況の力強さや減税効果でコンセンサスでは前年同期比で21%の増益が見込まれています。企業経営者の賃金動向や関税に関する発言はかなり注目を集めるでしょう。

日本で金曜日に発表される9月のインフレ関連のデータは、生鮮食料品とエネルギーを除外したCPIが前年同月比+0.5%とさらなる上昇が予想され、これは朗報となりますが、物価目標の2%からは依然として程遠い水準にあります。

中国で発表される経済データは、昨年に実施された信用引き締めや米国が課した関税の影響で現れた景気減速の兆候を考慮すると、重要視されるでしょう。金曜日発表のGDP成長率は前年同期比+6.5%と伸びの鈍化が予想されます(4-6月期は+6.7%)。9月の鉱工業生産は前年同月比+5.9%に減速する一方、小売売上高は+9%を維持し、固定資産投資は+5.5%と小幅な改善が見込まれます。火曜日に発表されるインフレ関連の指標は、PPIの伸びが前年同月比+3.6%に鈍化する一方、CPIは+2.5%に加速すると予想されます。

豪州では、木曜日に労働市場の指標が発表され、新規雇用者数は予想外の上振れとなった8月の44,000人増から9月は10,000人増に増加幅が縮小する一方、失業率は5.3%と前月から横ばいが見込まれます。火曜日に公表されるRBAの金融政策決定会合議事録では、同行が依然として次の政策金利変更は利上げとなると予想しているものの、現時点で行動を起こす理由は見当たらないとの見解が示されると予想されます。ウェントワースでの補欠選挙の結果次第では、現政権が議会でぎりぎりの過半数議席を失う可能性もあり、強い関心を集めています。

相場見通し

世界経済の成長が依然として堅調に推移し、企業の良好な業績の伸びを促し、また金融政策も依然として緩和的であることから、当社は株式市場の上昇トレンドが続くと考えます。ただし、貿易摩擦の脅威や、新興国市場の危機波及、米国中間選挙、イタリアの予算交渉を踏まえ、短期的にもう一段の調整局面を経験するリスクは依然大きいと見ています。に市場が弱含む可能性も十分にあると考えています。豪州株式市場については、不動産価格の下落や選挙を巡る不透明感がリスクを高めています。

債券投資からのリターンは低水準にとどまる中、豪州債券は、グローバル債券をアウトパフォームすると見られます。

非上場の商業用不動産やインフラは、相対的に高い利回りを求める投資家からの需要が引き続き追い風になると考えられますが、投資家の熱は冷めつつあります。

豪州では、パースやダーウィンの不動産価格が底打ちし、ホバート、アデレード、キャンベラ、ブリスベンでは緩やかに上昇しているものの、シドニーやメルボルンでさらに10%ほどの下落が見込まれているため、全国主要都市の住宅価格は一段と鈍化すると見られます。

定期預金の金利は 2.2%近辺で推移しており、現金や銀行預金のリターンは引き続き冴えないものとなると思われます。

米国経済が豪州経済と比べて活況で、RBAキャッシュレートと米FF金利の差がさらにそのマイナス幅を広げると予想されており、また豪ドルは弊社の目標である1豪ドル0.70米ドルに近くまで既に下落していますが、さらに1豪ドル0.60米ドル台に突入する可能性もあると見ています。豪ドルのショート・ポジションは引き続きグローバル経済の変調に対する有効なヘッジとなります。

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