環境・社会・ガバナンス(ESG)

影響を重視するのか、それとも形だけなのか?

ESGマネージャーとESG投資家のアラインメントは取れているのか?

ESG(環境、社会、ガバナンス)投資は、共通する一定の特徴を持った投資家がけん引する形で継続的に成長してきました。しかし、これら投資家のエシカル投資に対するコミットメントの程度や懸念事項は同一ではありません。

ESG投資の成長に伴って、より多くのファンド・マネージャーがESG商品を提供し始めた点は、驚くべきことではないでしょう。しかし、市場リターンの必要性と、持続可能な社会・環境面でのプラス効果を生み出すことのバランスをどの様に取るのか、そのアプローチはマネージャー間で大きく異なる場合があります。

投資家は、すべてのESGマネジャーが同一ではない点を認識すべきです。価値観主導型の枠組みの中で投資を実行したいと強く願っている投資家は、ESGのリスク管理を単に衛生要因と考える運用者ではなく、自らの価値観と合致するマネージャーを見つけるべきです。

パフォーマンスに対する感応度

ESG投資家の行動は、コミットメントの度合いによって異なるため、その優先度も投資家によって様々です。

最も優先度が高いのは、慈善投資家と呼ばれる、明確に定義された倫理的枠組みの中で資金配分にコミットしている投資家です。彼らは、リターン、特に短期的なリターンの獲得よりも、プラスの効果を実現することを優先しています。

その次に並ぶのが機関投資家の多くであり、長期リターンの獲得に焦点を当てる一方で、ESG管理に真剣に取り組んでいます。これら投資家が行う取り組みには、四半期毎にファンド・マネジャーと連携、保有株式全てに関するESG情報を注視するなどがあります。

一方で、ESGに対するコミットメントが低いのは、ESGを単なる衛生要因と考え、リターンの最大化を最も重要視している投資家です。これら投資家に求められるのは、最も重要なESGリスクを管理し、ガバナンス要件を満たすための管理体制が整備されている事です。

RIAAの責任&倫理的投資のスペクトラム

ポートフォリオにおけるESGリスク管理のアプローチが運用マネージャーによって異なる点は、驚くべきことではないでしょう。中には、規制準拠とESGリスク管理に関する幅広いアプローチを定めたポリシーをウェブサイトで公開するなど、単なる衛生要因と考えるマネージャーも存在します。しかし、これら以外のマネージャーは、倫理的な枠組みに沿った投資プロセス全体を確立する良い機会であると捉えおり、単なるマーケティングのツールではなく、長期に渡り投資家に価値を提供すると同時に環境面や社会面での成果を達成するための方法であると考えています。

アプローチの多様化は、最近のグローバル・インパクト・インベスター・ネットワーク調査結果1にも反映されています。同リサーチでは、インパクト投資を手掛けるマネジャーの66%が原則としてリスク調整後の市場リターンを目標としていることが示されており、ESGフォーカスの投資を追求する一方で、市場を下回るリターンを受け入れる意思がないことが明らかになっています。しかし、期待リターンを獲得すると同時に環境面・社会面でプラスの効果をもたらす投資は存在します。インパクト投資家は、自身の価値に妥協することなくリターンを確保することが可能なのです。

プラスの成果を達成する

ESG投資に対する従来のアプローチは、スクリーニング・プロセスを活用した投資ユニバースからの銘柄除外が基盤となってきました。実際のところ、除外される企業は社会や環境に悪影響を及ぼす可能性の高い事業を展開しているため、そのビジネスモデルや収益の長期的な持続可能性が懸念されるわけです。

除外対象となる事業の特徴としては、たばこや武器の販売、環境汚染、気候変動対策が極めて乏しい、不適切な管理によるサプライチェーンの労働問題などが挙げられます。

このアプローチは、従来の標準的な投資手法が進化している証拠であり、同分野における投資家の考え方は更に発展しています。中には、投資を通じてよりグローバルにプラスの影響を与えることを期待する投資家も存在します。

インパクト投資 には、グリーン・エネルギー技術開発への株式投資、教育サービスへのプライベート・エクイティ投資、風力発電所に資金を提供するグリーン・ボンド、そしてエネルギー効率が良いだけでなく、高齢者ケア施設や公営住宅など社会的意義を持った不動産投資などが含まれます。

より大きなプラス効果の実現に向けて、太陽光発電への投資を行ってもよいでしょう。日中に多くの電力を消費するショッピング・センターは、太陽光発電のオポチュニティでもあります。しかし、倉庫など産業用不動産ではショッピング・センター程電力を消費しないことからも、太陽光発電の可能性は限定的です。なぜなら、余剰電力の買取価格は通常の電気料金とは異なるためです。従って、一般的に、太陽光発電システムは、最大発電量ではなく、建物のエネルギー需要を満たすサイズになっています。

倫理上の問題に取り組む

ESG投資における大きな課題は、投資活動がもたらす社会的・環境的影響の考え方が、投資家やマネージャーによって異なってきている点です。全く同じ除外リストや投資哲学を持つマネージャーが2社存在することは稀です。

中でも、投資家が注目するESG課題の幅も様々です。投資ユニバースを狭い視野で考える事は一般的ではないものの、ESG課題をより幅広く検討する投資家とは、その関心度や優先順位が異なってきます。

一般的にESG投資の主な特徴であるCO2排出削減を例にとっても、CO2排出量が最も大きい機関を除外対象企業とするのか、それとも全投資先から排出ゼロを求めるのか、投資家の方針は大きく異なります。

一方で、投資家のコンセンサスが高い傾向にあるのは、たばこや化学兵器、生物兵器、クラスター弾、地雷などの禁止兵器です。これら製品は容認しがたい危害を与えることから、その製造を主事業とする企業への投資は行うべきでないという点において、ESG投資家の間では広く意見が一致しています。

しかし、これらが主事業ではなく、付随事業である場合には、判断が難しくなります。例を挙げると、鉄鉱石、アルミニウム、銅など、世界で広く使用されている石炭採掘を事業とする総合鉱業会社です。現在、石炭採掘と石炭火力発電は気候変動に悪影響を及ぼすという認識が広く受け入れられています。コミットメントの強いエシカル投資家がこれら企業を除外する一方で、ESGリスクに注目した投資家は、全体的なESG特性を考慮し、効率的な鉱山採掘と操業終了時の鉱区の修復など、更なる検討・検証を必要とするかもしれません。

投資家の意見が異なるその他の分野には、動物保護や人権などがあります。このような問題に対する投資家の態度は、価値観に依存しており、その価値観は投資家によって大きく異なる可能性が高いためです。ESG投資は、環境・社会面での危害と事業活動を関連づける科学的証拠に基づいていますが、倫理的アプローチは、動物へのあらゆる被害を回避したいという願望からくる価値観に基づいています。

責任あるサプライチェーン管理は、2013年にバングラデシュのビル倒壊で衣料作業員1,134人が死亡した「ラナ・プラザ」事件以降、ESGの重要な優先事項となっています。企業は倫理的な調達をすべきであるという考えは、今や広く支持されています。ガバナンスに優れた企業の多くは、サプライチェーン問題が事業の中断や風評被害を引き起こすというリスクを理解しています。投資家は、企業とのエンゲージメントを通じてサプライチェーン慣行に関する責任を明確にする努力を行うことを、ファンドマネージャーに求めています。

ESG投資において、投資家の期待と運用者の優先順位が異なるのもう一つの分野がガバナンスです。ダイバーシティー(多様性)、役員報酬、株主権利、取締役会の独立性等はすべて、マネージャーによるエンゲージメントを必要とする重要な分野です。しかしながら、ガバナンス・プロセスのさまざまな側面が投資家にとってどの程度重要なのかは、ガバナンスにフォーカスすることで生まれる長期的な価値の考え方によって様々です。

1 The Global Impact Investment Network (GIIN)、Global Impact Investor Survey 2017、2018年、https://thegiin.org/research/publication/annualsurvey2017

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