主なポイント
2018年も引き続き、分散投資を行う投資家にとって良好な市場環境が見込まれます。景気サイクルは依然現金や債券よりグロース・アセットに有利に働くと思われます。しかし、米国のインフレ率が上昇し始めるため、リターンはよりボラタイルで抑制されたものになると予想されます。
2018年の注目点は、米国のインフレ動向、債券利回り、トランプ政権を取り巻くリスク、イタリア総選挙、中国、シドニーとメルボルンの不動産市場、景気動向を示すグローバルのPMI指数などです。
はじめに
2017年は、トランプ大統領や、欧州での総選挙、中国、北朝鮮、豪州の不動産市場のクラッシュといったことが、お決まりの「懸念材料リスト」として挙げられていましたが、概して投資家にとって良い年となりました。 バランス型スーパーアニュエーション・ファンドのリターンは約10%と、インフレ率が約2%であることを考えると非常に高いリターンとなりました。2018年も好調なスタートを切りましたが、地政学的脅威が幾分か高まり、米国のインフレ率が上昇し始めているため、ボラティリティは高まると見られます。今レポートでは、2018年のグローバル投資環境見通しについてカギとなるポイントをいくつかお示ししたいと思います。
2017年からの5つの教訓
- 世界経済はついに、世界金融危機(GFC)後の影響から抜け出しました。長引く不況の議論は行き過ぎたものでした。GFC後の緩慢なグローバル経済成長は、主に大規模な金融危機後の典型的な後遺症を反映したものでした。
- 金融正常化を中央銀行が急ぎ過ぎず、また正常化が定着すれば、大規模な量的緩和策の終了が経済的な混乱を招くことはないでしょう。米連邦準備制度理事会(FRB)はゼロ金利政策から脱却し、量的緩和策の縮小を開始しており、米国において金融政策の正常化が定着したことは明らかです。
- 多くの人が考えているよりも、ユーロ圏経済はずっと良好です。欧州の多くの国の投票者は、得票数を伸ばすと予想されているポピュリスト寄りの政党に反対し、中道派の親ユーロの政党を選好しています。
- ノイズを排除することです。北朝鮮との戦争、トランプ政権への懸念、欧州の選挙、繰り返される豪州の不動産市場のクラッシュといった話を真に受け、利益を確定した投資家は大きなリターンの代償を支払ったはずです。
- 一貫した投資戦略を持つことです。2017年も投資家の気をそらす多くの材料がありましたが、投資戦略を一貫した投資家は、様々な懸念材料からリターンを防御し、まずまずのリターンを得たことでしょう。
2018年にカギとなるテーマ
- 市場は依然として投資サイクル上の良好なポジション(スイートスポット)に位置していると見られます。低インフレが続いていることや、世界的に緩和的な金融政策などを背景に企業業績が堅調に伸びていることから、グローバルの経済成長率は3.9%近辺まで加速すると見られ、好調な投資リターンが継続することが期待されます。
- しかし、米国のインフレ上昇開始を受けて、FRBが市場の予想を上回るペースで利上げを実施したり、その他中央銀行が刺激策を縮小させたり、また政治リスクが高まったりした場合には、市場のボラティリティが上昇することが予想されます。
- 2018年を通してボラティリティが高まる可能性は別として、企業業績の伸びと依然として緩和的な金融政策によってグローバル株式市場は年間を通して上昇基調をたどる公算が高いと見ています。
- 豪州株式市場は緩やかな企業業績の伸びを受けて、約8%のまずまずのリターンをもたらすものの、世界の他の市場をアンダーパフォームすると予想されます。豪州株式の上昇を受けて、ASX 200は6,300に達すると見ています。
- コモディティ価格は、グローバル経済の力強い成長を背景に上昇する可能性が高いと思われます。
- 低い利回りに加え、徐々に利回りが上昇することでキャピタル・ロスが膨らんでいくと予想されることから、債券投資からのリターンは低水準にとどまると見られます。
- 非上場の商業不動産やインフラ資産は、引き続き利回りを追求する投資家の動きから恩恵を受ける可能性があるものの、その動きは弱まりつつあり、また上場している不動産やインフラ資産については、債券利回りの上昇によって不安定な値動きとなりそうです。
- シドニーやメルボルンの不動産ブームが沈静化し、5%程度の価格下落が予想される一方で、パースやダーウィンでは市場が底打ちし、アデレードやブリスベンでは緩やかな上昇が見込まれ、ホバートは活況を呈すると予想されることから、豪州の代表的な都市の住宅用不動産価格の上昇率は0%程度への鈍化に留まると見られます。
- 現金や銀行預金のリターンは約2%の引き続き冴えないものになると予想されます。
- 豪ドルは短期的に反騰した後、豪州準備銀行(RBA)のオフィシャル・キャッシュ・レートと米国のフェデラル・ファンド(FF)レートとの差がマイナスとなり、対米ドルで下落する可能性があります。ただし、堅調なコモディティ価格が豪ドルの下限を形成すると見られます。
注目すべき7つのポイント
- ランプ政権を取り巻くリスク – 2017年はビジネス寄りの政策が占めましたが、ロバート・モラー特別検察官の捜査を巡るリスクと、中間選挙を控えて政治的圧力が再び高まっていることから、2018年は、中国やメキシコとの貿易摩擦や、北朝鮮との緊張のさらなる高まり、イラン新戦略といった、よりポピュリズムに傾倒した政策に回帰する可能性が予想されます。
- 米国のインフレ動向– インフレ率が急上昇した場合、FRBはよりタカ派的になると予想されます。また、米ドルや債券利回りも急上昇し、エマージング市場に重石となる恐れがあります。
- 債券利回り – 債券利回りの急上昇は、株式市場や利回りを求める需要から恩恵を受ける資産にとって悪材料となる可能性があります。
- 3月のイタリア総選挙 -反ユーロ政党「五つ星運動」の躍進が予想され、市場は神経質な展開となる可能性があります。しかし、連立政権を組むまでには至らないと予想され、反ユーロ色は後退すると思われます。また、その他欧州では親ユーロ派が依然大勢であり、イタリアが引き金となり、反ユーロの機運が一気に広がる可能性は考え難い状況です。
- 中国 - 先の中国共産党大会で宣言した、経済成長の減速を招く恐れのあるもう一段の構造改革に踏み込むかどうかに注目が集まります。
- 豪州のシドニーとメルボルンの不動産市場-速過ぎる減速は豪州の経済成長に水をさす恐れがあります。
- グローバルのPMI指数 - 景気の先行きを占う上で、注目が集まると見られます。
世界的に成長が加速すると考えられる4つの理由
- GFC後の緩慢な経済成長は影を潜めてきており、景気の先行きに対する確信度の高まりが、企業の設備投資や個人消費をけん引しています。自立的成長が戻ってきたと言えます。
- 依然として世界的に金融緩和の状態が続いています。米国でイールドカーブのフラット化に対する懸念が幾分か高まってきているものの、これは長期金利の低下によるものではなく、むしろ短期金利の上昇が引き金となっています。またポートフォリオの分散化や、欧州や日本で量的緩和が継続しており、それがグローバルで長期金利の上昇を抑え、結果的に米国の長期債利回りにも影響していることから、依然として長期債に対する需要は高く、経済成長が低下に転じる可能性は低いと見られます。
- 米国の景気刺激策など、緊縮財政の機運が薄れてきています。
- 債務の急増や、過剰投資、供給制約による行き過ぎたインフレなど、通常、景気後退の直前に見られるような事象は今のところ見当たりません。
極端な弱気相場に向かう可能性が低いと見られる3つの理由
株式市場は、適度の調整局面が延々と続いており、一時的な弱気相場(20%下落したとしても、一年後には回復)に入る可能性はあるものの、極端な弱気相場(20%下落し、一年後はさらに下落)に入る可能性は低いと見られます。
- 成長が加速する可能性が高く、景気後退に陥ることはないでしょう。極端な弱気相場の多くは景気後退が関係しています。
- 短期的なセンチメントは強気ですが、長期的なセンチメントや投資家のポジションは楽観的とは言い難い状況です。(楽観的な投資家の一部はビットコインに流れているのかもしれません。)
- 低金利環境が依然として株式投資の誘因となっていることから、株式にとってポジティブな相場環境が続いています。
トランプ政権に関わるリスクがそれほど大きくない3つの理由
2017年は、「トランプ大統領はビジネス寄りの現実主義者」という見方が支配的になると見ていましたが、2018年はトランプ大統領のポピュリストの側面が一段と色濃くなる可能性があります。
- トランプ氏のビジネス寄りの政策は、特に税制改革や規制緩和という形で実施されました。したがって、その政策のほとんどが過去のものになったと言っても過言ではありません。
- モラー特別検察官がトランプ氏の聴取を求めています。明らかな不正の証拠がない限り、共和党がトランプ氏を弾劾するとは思えませんが、たとえペンス副大統領が大統領に昇格したとしても、政策が大きく転換されることはないでしょう。一方で、トランプ氏の“口撃”や大衆迎合的な政策が強化される可能性があることから、市場にとっては懸念材料となるでしょう。
- 11月の米国中間選挙では、(ソーラーパネルと洗濯機に対する関税賦課が承認されたばかりの)貿易問題や、トランプ氏の支持者が訴える不平等問題が再び脚光を浴びると見られます。足下の世論調査では、共和党が下院の過半数を下回る可能性が示唆されています。
とはいえ、トランプ氏は成長と雇用を重視しており、これらを脅かす政策は望まないと考えられ、2016年に見られたトランプ氏に関わる懸念が現実のものとなる可能性は依然として低いと思われます。メキシコや中国との貿易戦争についても、支持者層の評判が良くない消費者物価の上昇につながることから、可能性は低いでしょう。
債券利回りが上昇する可能性が高い3つの理由
- 米国を中心に世界的に余剰生産能力が徐々に縮小し、コモディティ価格が上昇トレンドにあるため、デフレリスクが後退し、代わりにインフレリスクが高まってきています。
- 先進諸国の長期債利回りは、標準的な経済成長率3-3.5%と整合性が取れる水準を大きく下回って推移しています。
- 債券は、GFC後の大規模な資金流入により、買われ過ぎの水準にあります。
中国の経済成長が鈍化しない3つの理由
- 社会不安を招く可能性があることから、中国政府の急激な成長鈍化に対する許容度は低いと言えます。
- 金融財政政策は大きく引き締められてはいません。
- 債務増加の主なけん引役である貯蓄率の大幅な低下はなく、急激な債務の縮小は危険であると認識されています。
豪州が(再び)景気後退に向かわない5つの理由
住宅市場が下落サイクルに入り、個人消費の先行き不透明感が、現在、豪州が直面している主なリスクではあるものの、好材料も出てきています。
- 鉱業投資減少の豪州経済に対する影響が薄れてきました。
- 一方で、非鉱業投資やインフラ投資が上向いてきています。
- コモディティ価格が安定化、もしくは上昇トレンドにあることから、もはや国民所得が減少することはありません。
- LNGなどの資源プロジェクトによる輸出量の増加や、グローバル経済の成長が、豪州のさらなる成長を下支えするでしょう。
- 必要な場合は、金利がさらに低下落する可能性があります。
豪州の政策金利の次の動きは引き上げとなる可能性が高いものの、RBAが今後の経済成長とインフレの底打ちに対して一層の確信が持てなければ、今年後半からの段階的な利上げの開始はないと見られます。
株式市場のボラティリティが高まる5つの理由
- 米国のインフレ率が高まるにつれ、FRBの利上げ姿勢が市場の許容度を上回る可能性があります。
- トランプ大統領がポピュリスト寄りの姿勢を強める場合、2017年の時よりも地政学的リスクが高まると見られます。
- VIXのようなボラティリティ指標は過去最低水準にあり、一方で(さらに低下することに賭ける)投機的なショート・ポジション(ネット)は過去最高水準近辺にあることから、ボラティリティ指標が反転するリスクがあります。
- 2017年のような低ボラティリティの年の後は、大抵、株式市場のボラティリティは高まります。
- 米国株式市場は、いくつかの指標において割高感があります。
ビットコインが「良くない投資」である3つの理由
- 適切な評価尺度がなく、何の収益も生まないビットコインは投機性が高く、ボラティリティも極めて大きいため、2017年に見られたように群集心理に左右されやすい側面があります。
- 他の仮想通貨が作られるなど新規供給量は潜在的に膨大で、また先物取引によって簡単にショートしたり、投資需要を吸収したりすることができます。
- 政府が規制強化に乗り出しており、また通貨発行益が得られる法定通貨の独占を手放す可能性は低く、今後、ブロックチェーン技術を使った独自の仮想通貨を開発する可能性もあります。
投資家が留意すべき9つのポイント
- 複利効果 -定期的に成長資産に資金を振り向けることで複利効果が得られ、長期にわたって大幅に富を成長させることができます。「72の法則」を使えば、年率2.5%のリターンを生む資産に投資すると2倍になるのに29年かかる(=72÷2.5)ことになりますが、年率8%の資産であれば9年しかかかりません。
- 市場サイクルは健在 - 市場は常に上げ下げを繰り返していることから、それを認識し、振り落とされないよう心掛けることが大切です。
- 分散投資-1つの籠に卵を盛ってはいけません。
- ノイズの排除 - ソーシャルメディアの発達や情報が大量に入ってくるような環境では投資に関わるノイズが数多く創出されますが、それらは単に気をそらす材料でしかありません。
- 投資開始時点のバリュエーション - たとえば債券の利回りは依然として低いことから、中期的にも低いリターンしか獲得できないことになります。
- 安定的なインカム収入に着目 - 株式のボラティリティは高くなる一方で、分散化されたポートフォリオからのインカム収入はより安定的で、銀行預金からのインカム収入よりも高いことを忘れないで下さい。
- 群集心理に惑わされない - 市場が極端な動きをする場合は、常に間違えています。
- 安定的かつ妥当なキャッシュフローが見込める投資に着目 - ビットコインといった金融エンジニアリングやスキームは、投資とは言えません。
- 現在の低い名目リターンの世界を受け入れること - インフレ率が2%の時の10%のリターンは非常に高いリターンと言えますが、多分それは安定的なものではないでしょう。
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重要事項
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