リタイアメント

改善の余地が残る豪州の退職年金業界

By ショーン・ヘネガン
パブリック・マーケッツ部門コンサルタント 豪州、シドニー

スーパーアニュエーションと呼ばれる豪州の退職年金制度は、世界からも高い評価を受けています。

積み立ての義務化や幅広いプランで分散投資のアプローチが取られている点、そしてガバナンス枠組みの継続的な改善など、誇るべきポイントは数多くあります。

しかし、改善すべき点も数多く残されています。スーパーアニュエーションにおいて核となる目的は退職後に十分なインカムを提供する事ですが、豪州の退職年金業界は、重要な分野においてこのゴールとのアラインメントが欠如しています。

加入者における関心の薄れは、改善の必要性を示すリトマス紙と言えます。そして、退職年金業界が加入者とのリレーションシップを構築できなかった結果だと指摘する意見が高まっています。

確定給付型(DB)から確定拠出型(DC)への移行は、この良い例です。DB制度には明らかな限界があったとはいえ、加入者にとってみれば、その仕組みは明瞭なものでした。今日のアプローチでは、この明瞭性が欠如しています。

古き良き時代

その当時、年金ファンド加入者に提供される情報はリタイヤメントにおけるインカム見通しと、実にシンプルなものでした。今日の様に、投資市場リスクを負わなくてよいという事を、加入者は理解していました。

DB年金の受託者(トラスティ)にとっても、ピアグループとの競合を気にする必要はなく、一般的な加入者の目標である最終平均給与の倍増を達成する事がフォーカスのポイントでした。このアプローチにおいて、投資のフォーカスはマーケットウエイトのベンチマークに勝つことではなく、目標達成に向けたライアビリティ・マッチングでした。

これを、今日のDC型や積立型と比較してみてください。DB型からDC型に移行したことで、投資リスクは雇用者から被雇用者へとシフトしている以外にも、被雇用者に対して様々な選択肢が提供された事になっています。

しかし、その以降過程では、重要な何かが抜け落ちてしまったようです。

従来はリタイアメントで得られるインカムを明確に知る事ができましたが、現在ではこの明瞭性が欠如しています。加入者の受け取り総額を表示した現在の報告書は、加入者が目標達成に向けた進捗度合を知る上では無意味なものであるにも関わらず、インカム・フォーカスのアプローチを再び導入するという事に対して、業界の足取りは重いのです。

専門知識を持たない平均的な投資家は、アセット・ライアビリティ・マネジメント(ALM)のリスクを理解し、管理する事を求められているものの、適切なツールは提供されていません。

年金受託者の多くがいまだに活用しているファンドの評価方法からも、加入者における運用結果と退職年金業界の間の溝がうかがえます。業界としてのフォーカスはピア比較に置かれたままであり、間違った投資判断を導きかねないほか、加入者の置かれている状況を無視してキャピタルの最大化にフォーカスし過ぎるリスクがあります。

風潮は過ぎ去った

一般的な標準のバランス型70/30(株式7割/債券3割を組み入れ)ファンドの加入者への影響を見る上で、世界金融危機(GFC)は良い例です。受託者としては、ファンドが中央値以上の損失を被っていなければ満足な結果だったかもしれません。そして、30代の加入者であれば、下落した上場資産の回復を待つ時間的な余裕もあります。しかし、リタイアメントを目の前に控えた加入者の場合、これは大変な事態です。

豪州の退職年金業界は大きな進化を遂げてきたものの、まだ未熟と言えるかもしれません。

社会人1年目からスーパーアニュエーションに強制加入している豪州国民が退職を迎えるのは、まだ20年先です。

これらの新しい世代は、スーパーアニュエーションが強制でなかった昔の世代よりも、リタイアメントにおいてより高い生活水準を求める事になるでしょう。加入者中心のアプローチなしでは、これを実現できないリスクが出てきます。

私たちは、業界で一丸となって、直面するリスクの理解を深めなければなりません。

マーサー社の2020年スーパー・ファンド・エグゼクティブ・レポートによると、年金ファンドの幹部らは、この先5年における最大のリスクとして規制と政策環境の変化を挙げており、その多くが自身ではコントロールできない懸念であると考えています。

興味深いのは、積み立てとリタイアメントの分野における脅威としてディスラプションや新規参入を挙げたのは、調査対象となった31基金のうち僅か2基金のみだったという点です。加入者の関心の低さが目立つ現状において、年金基金の幹部が危機を感じないのだとすれば、加入者中心の観念を実現させる事は難しいでしょう。

ディスラプション

豪州の退職年金業界では、ディスラプションが進行しています。私たちは、加入者を最優先に考えるアプローチへと再び舵を取り、DB型からDC型、そして「DG(確定ゴール型)」へと進化を続けるべきです。

目標は、リタイアメント前の期間とリタイアメント中の期間を通して、ボラティリティを管理し、確実にインカムを獲得することです。

「Stronger Super(退職年金基金の強化)」改革を受けて、数多くの年金プロバイダーは、これまでの万人共通のバランス型ファンドに代わり、ライフサイクル型アプローチを標準のサービスとして提供をし始めました。これは正しい方向への第一歩です。

とはいえ、課題はまだ残されています。AMPキャピタルにおけるゴールベース投資は、この問題の核心に迫るものです。リスク許容度は人それぞれに異なり、中にはスーパーアニュエーション以外の貯蓄を有する人もいるでしょう。豊かな老後の定義も人によってまちまちであり、出費の水準も多様です。

ゴールベース投資とは、これら要因全てを検討し、加入者それぞれの目標達成に向けた戦略を構築する、一生涯のアプローチです。

豪州の退職年金業界は、ライフステージに関係なく、全ての豪州国民の利益を高めるために、協働を行う責任を負っています。

核となるべきは、より有意義なコミュニケーションや加入者中心の考え方です。知的財産や共同投資、社会プロジェクトなどコラボレーションに関しても、より幅広い視点で考える必要があります。急速に拡大した豪州の退職年金業界は、今後も成長を続けます。ファンドマネージャーのフォーカスは、社会全体の利益であるべきです。

業界が一丸となり、対ピア成績に基づく評価方法を変えていくことは、最大のレガシーになると私は信じています。

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ゴールベース投資とは、異なるライフスタイルや個人の目標達成を助けることを目的としたアプローチです。

パブリック・マーケッツ部門コンサルタント ショーン・ヘネガン

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