経済&マーケット

インフレ率と債券利回りの上昇が市場にもたらすリスクとは?

主なポイント

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世界的な経済成長とコモディティ価格の上昇は、インフレ率が徐々に上振れするリスクを示唆しています。これは米国で顕著に現れており、今年米連邦準備制度理事会(FRB)は市場が予想している回数よりも多く利上げを行う可能性があります。

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このことは、35年にわたった債券利回り低下のスーパーサイクルが終焉したとの見方を裏付けています。

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米国におけるインフレ率の高まりやFRBの積極姿勢が、今年の株式市場のボラティリティを高める可能性があります。とはいえ、長期債利回りの上昇は穏やかなものになる可能性が高く、また豪州を含む他の市場は米国市場に後れを取ると見られます。

はじめに

世界金融危機(GFC)以降、市場参加者の間でインフレ率が反転し債券利回りが急上昇するという懸念が浮上するたびに、経済成長が再び鈍化し、デフレ懸念が台頭してきたことで、懸念が現実のものになることはありませんでした。その結果、世界的なインフレ率上昇への期待感は次第に萎むこととなり、それを予想する人もほとんどいなくなりました。とはいえ、インフレや債券利回り上昇に対する世界的なリスクは漸く上方に向かい始め、ここ数日間で世界の株式市場が調整したことにも表れているように、市場がそのことに気付き始めました。しかし、そのリスクはどれほど大きいのでしょうか?他の資産まで巻き込むほどの債券市場崩壊の間際にあるのでしょうか?

インフレ率と債券利回りについての幾つかの考察

長い時間軸で見ると、インフレ率は1970年代半ばから1980年代初頭以降は低下傾向にあります。

出所:グローバル・フィナンシャル・データ、AMPキャピタル

過去30~40年間のインフレ率の低下は、中央銀行によるインフレ抑制策、生産性を上昇させた供給体制の進歩、グローバリゼーションによる10億人規模の労働者の資本市場への流入、アマゾンやウーバーなどに代表されるIT革命の影響などが背景にあると見られます。一方でインフレ率の低下は、債券市場において強気のスーパーサイクルの根源となり、1980年代初頭以降、債券利回りは低下傾向を続けています。

出所:グローバル・フィナンシャル・データ、AMPキャピタル

債券利回りの低下は2016年にかけて加速しました。デフレ懸念や、超低水準の政策金利への投資家の期待、経済成長の鈍化懸念、地政学的リスクへの警戒や株式市場下落の際に常に債券市場の上昇を経験した投資家からの安全資産に対する需要、高齢化の進展による利回り資産に対する需要の増加、財政赤字が減少する中で中央銀行が債券購入プログラムを実行したことによる債券供給量の減少などが、利回り低下が加速した要因にあげられますが、1980年代初頭以降の低下の主な要因は、やはりインフレ率の低下が大きく影響したと言えます。

インフレ率と債券以外の資産の関係

35年から40年間にわたったインフレ率と債券利回りの低下はまた、その他多くの資産クラスの上昇を支えてきました。

  • インフレ率の低下によって金利が低下し、債券利回りが低下
  • その結果、1980年代初頭に配当利回りと利益成長見通しに基づいて株価収益率(PER)7~8倍で評価されていた株式市場に対して、15~17倍のレンジで評価することを許容したことで、株式のリターンを押し上げました。
  • 金利の低下によって、その他資産についても低い利回りで取引され、商業用不動産や住宅、インフラに対する投資リターンが上昇。特に住宅価格については、低金利の住宅ローンによって所得水準が同じでもより多くの借入が可能となったことから、大きく上昇しました。

世界的にインフレが目覚め始めたことで上向く債券利回り

当社では、2016年の終わり頃から債券市場における強気のスーパーサイクルは終焉を迎えたと見ています。これにはいくつかの理由があります。まず第一に、米国を中心にデフレリスクが後退し、インフレリスクが徐々に高まってきたことです。

  • 世界の経済成長率は、現在、潜在成長率を上回り始めました。これにより余剰供給能力が減少しており、また足元の経済成長が加速していることから、来年の終わり頃までに余剰が解消されると見られます。余剰供給能力の減少によって、企業は価格を上げ易くなります。
出所:IMF、AMPキャピタル
  • 欧州や日本、豪州は依然として低インフレ環境から脱し切れていない一方で、米国では失業率が4%まで低下し、労働力不足や賃金上昇の声や、販売価格の上昇を指摘する調査結果も増えていることから、経済はフル稼働状態にあると見られます。1月の政策決定会合では、よりタカ派寄りのコメントが出ており、当社ではFRBが今年4回(もしくは5回)の利上げを行う可能性があると見ています(市場は2~3回の利上げを予想)。
  • コモディティ価格も上昇しており、特に石油価格の上昇は顕著で、今後、総合インフレ率の押し上げ要因になるでしょう。

第二に、強気相場の終焉は、債券利回りが長期名目成長率の水準を大きく下回っているときに、よく見受けられます(下表参照)。長い目で見れば、債券の名目利回りは、平均すると長期の名目GDP成長率の水準近くに収まる傾向があります。

出所:ブルームバーグ、AMPキャピタル

第三に、米国において債券市場はGFC後の大規模な資金流入を受け入れてきたことで買われ過ぎの状態にあります。(ETFも同様です。)したがって、投資家のセンチメントが真逆に振れたときに反落する可能性が高い状態にあります。

出所:ICI、AMPキャピタル

最後に、中央銀行が債券購入ペースが低下してきていることです。

これらの理由から、2016年下半期から始まり、昨年は一旦収まっていた債券利回りの上昇が、今年は上振れる可能性があります。

債券市場に対する懸念が行き過ぎと考える理由

インフレ率が高まり、債券利回りが上昇するにつれて、多くの投資家が、1994年の債券市場のミニ・クラッシュや、中央銀行が高い負債水準から政策金利の大幅な引き上げが出来ず、インフレ率が上昇を続けてもそれを止めることができない無力な状態、ある意味「パーフェクト・ストーム」といった最悪の事態を想定することは当然です。ただし、今のところ債券利回りの上昇は見られるものの、(過去18ヵ月間のように)その動きは穏やかなものであることから、「パーフェクト・ストーム」の可能性は低いでしょう。

  • 過去数年にわたった長期間の下振れの後でも、経済成長やインフレ上昇期待を織り込んで本格的な上昇基調に戻るのにはしばらく時間がかかることから、足元の債券利回りは依然として低い水準にあります。
  • FRBによる利上げは、現在米国市場が織り込んでいる回数より多くなる可能性があるものの、引き続き段階的に進めていく可能性が高いと見られます。
  • 一方、欧州や日本、豪州では、中央銀行が金融引き締めを開始するには程遠い状況であるため、しばらくの間は世界的に金融緩和の状態が続くでしょう。
  • 労働市場の余剰(欧州と豪州)や、技術革新がインフレ率を抑制することを勘案すると、世界のインフレ率が加速度的に上昇することは考え難いと思われます。
  • 期待インフレ率は、1994年当時と比べるとずっと良いものの、低水準で固定されています。
  • 最後に、高い負債水準があるからといって、中央銀行が債務危機もしくは高いインフレ率を受け入れなければならないという議論は馬鹿げています。高い負債水準というのは、単に金利の上昇がそれまで以上に効果があることを意味しているだけで、インフレ率が問題になり始めた場合、中央銀行はインフレ抑制のために過去のケースと同様の大きさで利上げをする必要がなくなります。つまり、高い負債比率は中央銀行が以前に比べてより大きなインフレ抑制力を持つことを意味しています。

最後に

債券利回りの上昇から連想されることがいくつかあります。まず第一に、国債投資からは大したリターンが得られないと想定されることです。中期的に投資家が債券から得られるリターンは、基本的に投資時点の利回り水準に依存します。2.8%の利回りの豪州10年債に投資を行った場合、10年間保有したときのリターンは2.8%程度ということになります。そして利回りが上昇した場合、短期的に投資元本を棄損することを意味します。

第二に、債券の利回りが上昇することで、株式が割高になるため、株式市場のリターンにも影響を与えることになります。利回りの上昇スピードが穏やかであれば利益成長と相殺されるため(当社では今年の相場をそのように予想しています。)、株式にとっては問題はありませんが、長期債利回りが急激に大きく上昇する場合はその限りではありません。いずれにしても、今年の株式市場はボラティリティの大きな相場展開になることが想定されます。

第三に、ディフェンシブな高利回り株式は、上値の重い展開が続くと予想されます。これにはリートや公益株といった、債券利回りの低下から恩恵を受けてきたセクターが含まれます。これらのセクターは、債券利回りが上昇基調となる中で、アンダーパフォームする可能性が高いと思われます。

第四に、非上場の商業用不動産やインフラ資産のような実物資産については、債券利回りがほぼ一本調子で上昇するような相場環境にならない限り、引き続き利回り追求の動きがリターンの源泉になると見られます。商業用不動産は、債券の利回りが低下した際にリートのように追随しなかったことから、債券利回りとの差において、依然として魅力的な利回りを保っています。GFCに向かって債券利回りが上昇を続け、商業用不動産の利回りを上回った時期がありましたが、それから商業用不動産の価格が不安定になり始めました。現在の状況は当時とはかなり異なりますが、債券の利回りが上昇するにつれて、商業用不動産やインフラ資産のリターンを押し上げていたバリュエーションの根拠が徐々に弱まっていくと考えられます。

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