ハニーポット(蜜つぼ)
実店舗を持つ小売事業にとって、最大のコストは不動産です。つまり、ロケーションが命だという事です。
―ジェフ・ベゾス、アマゾン創業者、会長、CEO
直接的・間接的にも莫大な経済インパクトが期待できることから、地方自治体は成長著しい事業の誘致に極めて積極的です。
これは、高報酬の雇用が生まれ、その波及効果として経済成長が促進されるとともに、様々な事業が集まることによるクラスター効果が更なる投資を誘致し、税収が増加するためです。
今この収益成長のオポチュニティを手にすることができるのは、これら高成長事業のニーズに対応できる上場不動産企業です。
現在の経済サイクルにおける成長著しい事業の多くは、テクノロジー関連ビジネスです。高成長軌道に乗ったグローバル・テクノロジー企業の出現により、グローバルそして地域拠点となる大規模なハブ開発プロジェクトが幾つか動きだしています。これら企業を誘致することは、経済効果や税収増が期待できることからも、地域社会にとっても極めて魅力的です。
従って、これら企業の拠点ロケーションの選考プロセスには、地方自治体のみならず、メディアからの注目が高まっています。主要拠点となるロケーションの選定において重要なポイントは、これらテクノロジー大手の長期的なグローバル成長計画をサポートする場所であるという点です。つまり、焦点となるのは、イノベーションやオペレーション効率の促進に寄与する要因です。
この良い実例が、シアトルに本社を構えるEコマースの巨人アマゾンによる第二本社「HQ2」の候補地選びです。50億米ドル規模の同プロジェクトからは、5万人の雇用創出が見込まれています。同社は、誘致の公開受付を2017年9月に開始し、米国、カナダ、メキシコの合計200を超える都市が誘致に名乗りをあげました。
そして2018年、1月に他候補地が選考によって20社に絞られ、11月にはHQ2が2都市に分割されると発表されています。最終的に選択された都市は、ヴァージニア州アーリントンのナショナル・ランディングと、ニューヨーク市クイーンズのロングアイランド・シティです。各拠点ともに、最終的に25,000人の雇用創出が予定されています。
ギーク(熱心な愛好家)の獲得
大規模なテクノロジー事業は、優秀な学歴を持ち、ITに精通しているだけでなく、企業の成長に寄与するスキルや経験を有する社員を揃えていなければなりません。
これは、HQ2候補地選定プロセスでも強調されていたポイントです。同社のカーニー副社長は、ニューヨーク・タイムズ紙に対して、「選定プロセスをたどる中で明らかになったのは、優秀なタレントを発掘、そして獲得する能力が最優先であるという事です。」と語っています。つまり、世界屈指の名門大学というタレント発掘の場にほど近いロケーションが、アマゾンに代表される企業の成功には重要となるのです。
大手テック企業が拠点を設ける場合、多様な職種を含む大規模な採用が行われます。しかし、この採用で最も大きな課題となるのは、ソフトウエア・エンジニアとプログラマーの採用です。
大規模なテクノロジー企業拠点をオープンする場合、開設には時間を要することからも、継続的な大規模採用が必要です。従って、その成功の鍵を握るのは、適切な資格やスキルを有するジュニアレベルのスタッフが安定的に確保し続けられるかどうかであり、このポイントが、候補地選定プロセスにも影響を及ぼすというわけです。
関連する学科において、世界的にも認知度の高い大学や短期大学が存在するという点は、重要なポイントとなります。
フォックスコン・テクノロジー・グループでは、ウィスコンシンにおける事業拡大に際して、十分な地元採用が困難であるために海外からエンジニアを呼び寄せる事を検討しているとの報道が議論を呼びました。これは恐らく、同州がミレニアル世代のコマース中心地として認知度が低かったからでしょう。
働き、休み、遊ぶ
労働力の確保に関連するポイントとして求められているのは、長期にわたる技術者採用を支援する事が可能なロケーションであり、その「住みやすさ」が重要視されています。
慎重な検討対象となる事が多いのは、若いプロフェッショナルが集まるレストランやバー、スポーツジム、カルチャー、オープンスペースを備えた、活気ある国際的な都市エリアです。世界最大のテクノロジー・ハブであるサンフランシスコ、ニューヨーク・シティ、ロンドンが、これらITプロフェッショナルにとって住みやすい都市の上位に位置づけられているのは、偶然ではありません。
今や「ナショナル・ランディング」という新しいブランド名で知られるヴァージニア州北部クリスタル・シティでは、そのバラエティに富んだショップやレストランの存在を、アマゾンのHQ2誘致におけるアピール材料としました。
また、13万平方フィート規模のエンターテインメント&ショッピング・センター開発という民間イニシアチブを支援している点もポイントです。この「セントラル・ディストリクト・リテール」プロジェクトには、アラモ・ドラフトハウス・シネマ映画館、食品専門店、レストラン、バー、その他娯楽・小売店舗が入る予定です。
また、半径5マイル圏内には、合計40万戸程度の賃貸マンション、コンドミニアム、タウンハウス、一戸建てが立ち並び、追加で4万戸が開発段階にあります。これは、若手プロフェッショナル採用に力を入れるアマゾンにとって好ましい環境です。しかし、これ程大規模な拠点開発においては、シニア幹部職多数の採用も必要であり、より家族向けの地区へのアクセスの良さなど、若手世代とは異なるライフスタイルのニーズを考慮する必要があります。
フェイスタイム:向き合う時間
シニア幹部職の採用に際してテクノロジー企業が注目するポイントは、より広いスペースの確保や有名学校が程近いなど、子持ち家庭向けエリアとの交通アクセスが良好であるかです。つまり、より郊外に位置する住宅エリアとオフィスを結ぶ鉄道路線の駅にほど近い、といった点が重要になります。
ナショナル・ランディングには、地下鉄3駅とヴァージニア・レイルウェイ・エキスプレスの通勤列車停車駅があります。世界的なテクノロジー拠点として「シリコン・ラウンドアバウト」の名で知られるロンドンのショアディッチは、地下鉄のオールド・ストリート駅を中心に開発されました。
都市部の商業・行政中心地への鉄道・道路アクセスが良好であるという事は、顧客やサプライヤー、投資家、そして政策担当者らとのミーティングが容易に行える点からも重要なポイントとなります。
世界的に事業展開するテクノロジー・グループにとって、関連都市への直行便が発着する空港へのアクセスも、その候補地の魅力を高めるアピールポイントです。ナショナル・ランディングの提案では、約100都市への直行便が発着するレーガン・ナショナル空港への良好なアクセスが強調されていました。
もうひとつの交通といえば、自転車です。自転車専用レーンや包括的な自転車シェアリングの実施も、環境配慮の意識が高い社員のライフスタイルにマッチするものです。
政府支援
グローバル・テック企業大手が重視するのは、交通の便に優れ、技術者にとって魅力的なロケーションの発掘です。一方で、誘致提案に対する地元行政の意欲も、その選定プロセスにおいて重要な役割を果たします。
ナショナル・ランディングの誘致提案には、ヴァージニア州政府と自治体らによる様々な取り組みを通じた支援が盛り込まれています。計画されている2万5千人の雇用創出に対して、年収15万米ドル超の雇用については一人当たり22,000米ドル、最大で合計5.5億米ドルの補助金を提供するなどが、この一例です。
地元自治体においては、地下鉄のクリスタル・シティ駅とポトマック・ヤード駅、国道一号線、空港の連絡橋の改装に1億9,500万米ドルを投じる予定です。地元の大学では、学士号と修士号課程に対する補助金3億7,500万米ドルが支給されるとともに、テクノロジー分野のインターンシップ促進を目的とした助成金が準備される予定です。
イノベーション拠点の支援に公的資金を活用する動きは、世界的に広まっています。2012年、当時の英国キャメロン首相は、ロンドンのオールド・ストリート・ラウンドアバウト周辺地区の再開発に5,000万ポンドを投じ、テクノロジー企業向けの大規模な屋内型市民社会スペースを創ると発表しています。
この大規模な公的資金の投入に関しては、一部の報道関係者が、その税金の使い道に疑問を投げかけていました。しかし、結局のところ、テクノロジー企業の誘致が決定した際には、同様の支援が提供される場合が多いのが実情です。
地元自治体の政策担当者にとって、高給与の雇用、より幅広い経済面での恩恵、税収増は極めて魅力的です。企業誘致がもたらすプラスの効果は、アマゾンが本社を開設させたシアトルの街並みをみれば一目瞭然です。
些細な問題:オフィス・スペース
注目すべきポイントは、イノベーションを通じて事業成長に寄与する社員や契約スタッフの受け入れに適当なオフィス・スペースが必要とされているという点です。
これには、新オフィス建設に適した、長期的な事業拡大に対応できる十分な土地の確保が必要となります。妥当な時間軸で建設を完了するためには、地元建設業者の対応能力や計画にかかる規制の柔軟性が不可欠です。
より目先で必要となるのは、企業のニーズに適応する、または適応に向けた改装が可能な、大規模な既存のオフィス・スペースでしょう。
ナショナル・レンディングは、620万平方フィート規模の既存オフィス・スペース、そして同社の不動産開発パートナーが権利を持つ740万平方フィート規模の追加スペースの獲得機会をアマゾンに提供しています。
まとめ
グローバル・テクノロジー企業グループの継続的な成長を背景に、大規模な拠点開発プロジェクトが幾つか動きだしています。これら企業を誘致することで期待できる経済効果は大きく、多くの地方自治体が積極的に取り組んでいます。
様々なステークホルダーで構成されるエコシステムと連携し、適切なサービスの提供を通じて魅力的な提案を示すことができる不動産企業にとっては、大きな収益成長の機会です。
上場不動産の投資家は、視点をグローバルに切り替え、これらテック大手企業におけるロケーション選定プロセスの理解を深める事で、バリューの獲得が可能となるでしょう。
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