コミュニケーション

ウィークリー経済 2018年9月3日

By シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジー&エコノミクス担当ヘッド、チーフ・エコノミスト 豪州、シドニー

先週の主な話題

先週のグローバル株式市場は、米国市場の最高値更新により後押しを受けて上昇しましたが、(特に新たな通貨暴落に見舞われたアルゼンチンやトルコといった)新興国で混乱が続いたことや、米国による中国からの輸入品に対する更なる関税発動に先立った神経質な動きにより、上値が抑えられました。米国市場は0.9%、日本市場は1.2%、中国市場は0.3%上昇しましたが、欧州市場は貿易不安から0.6%下落しました。豪州市場は、政治的混乱の影響から先週下落しましたが、今週は反発し1.2%上昇しました。債利回りは、米国では上昇しましたが、日本は横ばい、ドイツおよび豪州ではやや低下しました。商品価格は、原油価格が横ばいとなったものの、金属および鉄鉱石価格は低下しました。通貨では、米国ドルが横ばいとなりましたが、豪ドルは貿易不安、軟調な経済指標、銀行の住宅ローン金利上昇によりRBAが金利を長期間据え置く可能性が高まったことから下落しました。

米国およびメキシコによる北米自由貿易協定(NAFTA)の交渉を巡るポジティブなニュースが確認されましたが(カナダとの交渉は9月5日に予定され、メキシコと同様の進展が期待)、米国によるグローバル貿易に対する脅威は依然として残っており、中国に対する関税が近いうちに拡大すると予想されます。米国とメキシコがNAFTAの改正に合意し、カナダも改定したNAFTAに参加する可能性があるというニュースは良い兆候です。また欧州との交渉の開始は、トランプ大統領が単に「反貿易」なのではなく、米国にとってより「公正な貿易」を望んでいるだけだということを示唆しています。しかし、トランプ氏が依然としてWTOからの脱退をちらつかせる中、EUが提案する自動車関税の撤廃がトランプ大統領にとって「充分ではない」ことは明白であり、米国がさらに大規模な対中関税を間もなく実施すると示唆しているため、貿易戦争のリスクが引き続き高まることも明らかです。2000億米ドルに相当する最大25%の対中関税に対するパブリック・コメント期間は、9月6日に終了し、その後すぐに発動される予定です。これが意味するところは、米国は中国からの輸入総額の半分に関税をかけているものの、この割合は、米国の総輸入額の僅か10%に過ぎないため、関税の報復合戦によって米国の輸出入が大幅に落ち込んだ1930年からは依然として程遠い状態にあります。しかし米中間の交渉は、米国の中間選挙や、11月に開催されるサミットでのトランプ大統領と習近平国家主席の会談までは実施されない可能性があり、貿易問題はしばらくの間、市場のボラティリティ上昇の要因となると予想されます。また米朝交渉の進展も見られないため、その点でも米中間の緊張が再び高まっています。

豪州の住宅ローン金利は、ウェストパックや一部の小規模の銀行が同金利を引き上げ、他の大手銀行もこの動向に追随すると予想されるため、上昇基調にあります。今年における短期金融市場での借入金利の上昇を考えると、これは全く驚くべきことではなく、バンクビル・レートとRBAのキャッシュ・レートの差が拡大し、平均的な水準をはるかに超えています(以下のグラフをご参照ください)。バンクビル・レートは直近1カ月ほどで若干低下し、その差は過去約10年の平均値より20ベーシス・ポイント超高くなっています。銀行はこれらのレートで全体の35%の資金を調達しているため、貸出金利の引き上げの形で転嫁させない限り、利ざやが縮小することになります。小規模の銀行は既に引き上げを開始し、現在大手銀行もこの流れに追随し始めているようです。希望的観測としては、この動きが遅れれば、現在上昇している短期金融市場が落ち着くと予想されます(しかし、銀行預金の成長鈍化はマネー・マーケット・ファンドにとって競争力が高まることを意味すると考えると、実際には今後も起こらないと予想されます)。住宅ローン金利の上昇幅は平均で約15ベーシス・ポイントと小さいですが、多くの借り手が今後も金利上昇が続くと懸念していることを考慮すると、同金利の上昇は消費支出や住宅購入者の需要をさらに減退させる要因となっています。特にシドニーとメルボルンはすでに住宅価格が下落しているため、住宅市場は打撃を受けると予想されます。このように現在RBAは事実上金融引き締め政策をとっており、この点が、RBAが長期的に金利を据え置くと考えるもう1つの理由です。

出所:ブルームバーグ、AMP キャピタル

世界経済指標の動向

米国の経済指標は引き続き概ね堅調でした。先週は、中古住宅販売仮契約指数の低下が継続した一方、住宅価格は上昇を続け、消費者信頼感は過去18年間で最高となり、個人消費は大きく上昇し、失業保険継続受給者数は引き続き非常に低く、輸入が拡大したため、前渡商品貿易赤字は7月に更に拡大しました。一方、コア・インフレ率は米連ぽい準備制度理事会(FRB)の2%のターゲットに近づいています。これら全てがFRBの緩やかな継続的な利上げを正当化しています。

ユーロ圏の景況感は8月に若干低下したものの、堅調な経済を示すように一定の水準を保っています。これに対し、ドイツIFO企業景況感指数は大きく上昇し、銀行貸出の伸びは続いています。日本の経済指標はまちまちで、(人口減によって)雇用市場は引き続き非常にタイトな状況が続きましたが、鉱工業生産は僅かながらも低下しました。東京のコア・インフレ率は前年比 0.6%に上昇しましたが、これは変動的なホテル客室料金の上昇が背景となっています。

中国の経済成長が減速しているように見える中、8月のPMIは予想外の伸びを示しました。PMIは非常に高い水準ではないものの良好な経済成長を示す水準にあり、政府による融資抑制策や貿易戦争の脅威がまだ大きな悪影響は及ぼしていないことを示唆しました。

豪州経済指標の動向

設備投資、住宅建設許可件数、民間部門信用は軟調でした。4-6月期の設備投資は失望的でした。4-6月期は予想外に落ち込み、通年の投資計画は依然として鉱業投資の減少と非鉱業投資の緩慢な成長を示しました。しかし、鉱業投資の低迷による経済成長への大きな悪影響はほぼ過去のものとなっています。一方、軟調な住宅建設許可件数は、住宅建設サイクルがピークを迎えたことを示し、投資家向け貸出が減少し続け、個人・企業向け融資が弱含みで推移するなかで、民間部門信用の伸びは軟調にとどまりました。上半期の堅調な経済成長にもかかわらず、今後の成長はRBAが期待する成長よりも弱いとの見方に変わりはありません。

6月の豪州の決算発表は出揃い、堅調でした。決算を発表した企業の44%の業績が上振れ(長期平均の44%と同水準)、前年同期から増益となった企業は77%と、グローバル金融危機(GFC)以来で最高水準となり、長期平均の66%と比較しても好調でした。また、86%が増配あるいは配当を据え置き、62%の企業の株価が決算発表当日に市場をアウトパフォームしました。2017年~2018年の増益率はほぼ予想通り8%程度となり、堅調なコモディティ価格や販売数量の増加を受けて資源関連企業は約25%、他のセクターは5%程度となりました。米国企業の増益率28%には及びませんが、依然堅調な水準です

出所:AMP キャピタル
出所:AMP キャピタル
出所:AMP キャピタル

今週の注目点

米国では、金曜日に発表される8月の雇用データが、待ち望まれている賃金の伸びの加速が見られるかどうかといった点で注目されます。その他、8月のISM製造業および非製造業景況指数(火曜日と木曜日)、7月の貿易収支(木曜日)の発表が控えています。

中国では財新PMIが月曜日より公表されます。

豪州では、火曜日にRBAの理事会が開かれますが、政策金利は再度据え置かれると予想され、この場合、過去最長25ヶ月連続の据え置きとなります。

また豪州では、水曜日に4-6月期のGDP成長率が発表されますが、前期比0.7%、前年比2.8%の伸びが見込まれています。その他、コアロジック住宅価格(月曜日)、7月の小売売上高(月曜日)、7月の貿易収支(木曜日)、住宅ローン(金曜日)などが公表されます。

相場見通し

世界経済の成長が依然として堅調に推移し、企業の良好な業績の伸びを促し、また、金融政策も依然として緩和的であることから、当社は年末までには株式市場が上昇すると考えます。ただし、季節的に株式市場は軟調な時期であり、また米中の貿易摩擦の脅威や、FRBが利上げがエマージング市場へ及ぼす影響、ロシア疑惑を巡るムラー特別検察官の聴取や米国中間選挙を控え、今後も時折ボラティリティが高まる局面や一時的に市場が弱含む可能性もあると考えています。豪州株式市場については、不動産価格の下落や選挙を巡る不透明感がリスクを高めています。

債券投資からのリターンは低水準にとどまると見られます。豪州債券は相対的にハト派的なRBAにサポートされ、グローバル債券をアウトパフォームすると思われます。

非上場の商業用不動産やインフラは、相対的に高い利回りを求める投資家からの需要が引き続き追い風になると考えられますが、投資家の熱は冷めつつあります。

豪州では、パースやダーウィンでは不動産価格が底打ちし、アデレードやキャンベラ、ブリスベンでは緩やかに上昇しているものの、シドニーやメルボルンでは更に10%ほどの下落が見込まれているため、全国主要都市の住宅価格は一段と鈍化すると見られます。

定期預金の金利は2.2%近辺で推移しており、現金や銀行預金のリターンは引き続き冴えないものとなると思われます。

米国経済が豪州経済と比べて活況で、RBAキャッシュレートと米FF金利の差がさらにそのマイナス幅を広げると予想されることから、1豪ドル0.70米ドル近辺まで対米ドルでの下落トレンドが継続すると見ています。一方で、堅調なコモディティ価格を背景に、1豪ドル0.60米ドル台後半で下値抵抗線を形成すると見られます。豪ドルのショート・ポジションは引き続きグローバル経済の変調(例えば貿易摩擦やエマージング市場)に対する有効なヘッジとなっています。

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